す〜ぱ〜るーみっく 〜それぞれの出会い(後)〜
すっかり夜になり、照らしている物は星と月、そして懐中電灯だけになってしまったころ。
「おい、ここ……」
乱馬たちは思いがけないのを見つけた。それは……。
「温泉だわ!」
「こんな山奥にあるとは……」
「……私から先に入っていい?なんか急に疲れが出ちゃって……」
「充分いいですっ。」
「別に俺はおまえの色気がねぇ体なんざ見ないから安心しな。」
乱馬がそう言った途端、すぐにあかねが殴る。
「もう、何言ってるのよ!」
そんな時、
「あの……」
後ろで司が小さく尋ねた。いつもの強気が嘘のようである。
「俺も……あかねと一緒に入っていいか?」
これに、乱馬と良牙は即答。
「良いわけねーだろ!おまえは本当は15歳なんだろ!?」
「貴様、その年であかねさんの裸体を見ようなど……!」
「ばっ、てめーら、そういう意味じゃ……!」
「じゃあどういう意味だよ。」
乱馬の言葉に司は口をつぐむが、しばらくしてまた動かした。
「……しゃーねーな。おまえら、よーく見てろよ。」
司はそう言うと、
<バシャーン……>
服も脱がずにそのまま温泉へ飛び込んだ。
湯の中で、司の影が少し小さくなったように見える。何を考えていたのか、すぐに湯からは出ずに、数秒間潜っていた。
(あいつ、まさか……?)
中から司が出てきた時、司の体格は変わっていた。背は少し低くなり、少しだけだが胸が出ている。
「俺……本当は女なんだよ。言っとくけど、決して妖怪とかじゃねーからなっ。」
司は乱馬たちの表情を伺いながら少し低い口調で言った。恐らく、今までに何度か誤解されたのだろう。
「別に大丈夫だぜ。なぜならこいつはこうだからな。」
「わっ!?」
良牙は水筒の水を乱馬にかける。
「良牙、てめーなぁ……」
司はそれを見てきょとんとした。
(俺と……正反対の体質……!?)
「……わかったわ。らんま、司くん……ううん、司ちゃんと一緒に入っていいよね。」
「……ああ。」
「やっと出やがったか。」
騒ぎを聞いて犬夜叉たちは外に出る。その妖怪は、簡単に言えば大きな茶色い蜥蜴。犬夜叉を丸飲みに出来そうなくらいに大きい。
「そういえば、かごめちゃんは?」
「確かあのおなごについてったきりじゃ……」
「けっ、あんな奴一発でたたっ斬ってやらぁ!」
その時、何人かの村人が刀や槍を持って妖怪の所へ向かう。しかし、妖怪は長い尻尾を振り回して簡単に蹴散らしてしまった。
「ばか、てめぇらは手を出すなと言っただろ!」
「犬夜叉、私は珊瑚と一緒に村人を避難させる。おまえだけでも倒せる相手のはずだ。」
「わかった。七宝、おまえはかごめを探せ!」
「あれ……何?」
涼子が指差す方には、なにやら巨大な尻尾と小さな赤い影が見える。
「犬夜叉……もう戦ってるわ。あなたは早く村の外に逃げて。私は犬夜叉の所へ行くわ。」
「え、でも……きゃっ!」
走っている二人の横に建っていた家が、一瞬にして炎に包まれた。妖怪の吐いた炎が当たったのだ。
「涼子さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。かごめちゃんこそ……」
「うん……それから、あたしもかごめちゃんと一緒に行く。」
「え?」
「ちょっとね……。」
涼子は、あの夢の事を思い出していた。こことは違う時代で女の子とぎゅっと手を繋いでいた夢。その子の顔まではわからなかったが、服はかごめの着ている物と同じだったような気がする。
(あの夢……まさか……)
その頃、弥勒と珊瑚は柵の外の所に村人を集めていた。
「村の人たちはこれで全員?」
村人たちは自分の家族がいるかどうか確認している。
(涼子……いるか?)
宿丸も涼子がいるか探していた。しかし、ここにはどこにもいない。
「……涼子がいねぇ!」
「あ、待ちなさい!」
急に叫んだ宿丸は、弥勒の言葉にもかまわずに村の中へ戻っていった……。
「かごめーっ!」
「あれ、その子は……?」
「七宝ちゃんっていうの、私達の仲間よ。七宝ちゃん、どうしたの?」
「早く犬夜叉の所へ行くんじゃ。苦戦しておる。」
「わかった。涼子さん……本当にあなたも行くの?」
「うん……」
(もしかすると、あたしはかごめちゃんと………)
「犬夜叉!」
かごめと七宝、そして涼子が犬夜叉の所に来た。
「かごめ、てめぇ今までどこ行ってたんだ!」
(無事だったか……)
「そ……そんなの別にどこでもいいじゃない!」
妖怪の尻尾がかごめたち目がけて振り下ろされた。ぎりぎりでかごめたちは避ける。
「とりあえず……七宝ちゃんと涼子さんは、ここにいて。」
「わかった。」
まだ燃えていない家の影に七宝と涼子は隠れる。
(それにしても、なぜ涼子さんはわざわざここに来たんだろう……?)
「かごめ、四魂のかけらはあるか!?」
「ううん、ない。気配もなかった。」
「けっ、それなら一気に風の傷で……!」
犬夜叉がそう思った時、
「涼子―――っ!」
宿丸が妖怪のそばに走ってきた。
「しゅ……宿丸!?」
涼子は少し顔を出してみるが、丁度宿丸は妖怪の後ろにいたのでここからは見えない。
「てめぇ涼子をどこにやった!?」
そう言って宿丸は妖怪の尻尾に刀を突き刺すが効果はなく、逆に尻尾で振り飛ばされる。ひるんだ宿丸を、妖怪は更に爪で引き裂こうとした。
「てめぇ逃げろと行ったはずだろ!?」
すぐに犬夜叉が駆けより、宿丸を抱えて寸前で避けた。
「涼子がいねぇんだよ!まだこの村のどこかにいるんだ!」
「大丈夫、涼子さんはここにいるわ。」
「宿丸……」
思わず涼子は家の影から飛び出し、宿丸の所へと走るが、そこを妖怪の爪が襲う。
「この……っ!」
その爪はすかさずかごめの放った矢が命中し、足ごと吹き飛んだ。妖怪は大きなうめき声を上げる。
「涼子さん、大丈夫?」
「うん、なんとか……」
しかし、妖怪は激怒したらしく、適当な方向に無差別に炎を吐き始めた。
「くっ……」
(ちくしょう、俺だけならともかく、人間抱えたままじゃ炎の中を動けねぇ!)
「わ〜〜っ!」
七宝も必死に避ける。
そして、その中の一発がかごめ目がけて飛んできた。
「え……」
「かごめちゃんっ!」
炎がかごめにぶつかる寸前、涼子がかばうようにかごめを抱きしめた。
(涼子さん……!?)
<ゴオォッ>
そして、二人は……消えた。
二人がいた所の後ろにあった家が炎上しているだけだった。
「……………」
「す、涼子……」
炎の隙間から見ていた二人は、呆然としていた。特に犬夜叉は、鉄砕牙を落としそうになった。消えた二人がいた所を見つめていた妖怪は、犬夜叉たちの方を向く。犬夜叉と宿丸には、妖怪が笑っているように見えた。
……何かがはじけた。
「てめ――――――っ!!」
犬夜叉の怒りの風の傷が、一瞬で妖怪を粉々にした……。
(あの夢は……このことだったんだわ…………)
その頃、あかねと司は二人で温泉に浸かっていた。
「司ちゃん……どうしてそんな体質になっちゃったの?」
「5年くらい前の事なんだけどよ、その時も俺は道に迷っていたんだ。夏のとても暑い日だった。その時丁度いい池があったから、水浴びしようと思って飛び込んだら……」
「……男になっちゃったんだ。」
「うん。そこの名主の話によるとな、あの池は男清水と言って、30年ほど前にその村がキツネの悪さに困っていた時に、でっかい大陸から来た高僧が作ったんだって。その池に浸かった奴は水をかぶると男になって、お湯をかぶると元に戻るんだと……」
「……おい、この話どっかで聞いた事ねぇか?」
大きな岩の後ろで、らんまと良牙はひそひそ話。
「なんだそりゃ?ってらんま、何俺のリュックあさってやがる!」
「おまえから聞いたような気がするんだよ、その話!」
「それで……あなたは元の大きさにはなりたいって言ってたけど、完全な女の子には戻りたくないの?」
「ああ。」
司は当たり前のように答えた。
「そりゃ初めの頃は俺もびびってたけど、男の体の方が力もあるしケンカも強くなる。もうこの際、一生男になろうと思ってるんだ。」
「ほら、これの事だ!」
らんまが良牙のリュックから出したのは、しわくちゃでぼろぼろになった和風男溺泉の地図。
「何言ってやがる、それはもう枯れちまったんじゃ……」
「バカ、ここがどこだと思ってやがる!?」
確かに、らんまと良牙が探しに行った時は既に枯れていた。
しかし、それはあくまでらんまたちのいる現代での話。ここは、500年前。和風男溺泉が枯れる前の状態である可能性が高いのだ。
「……でも、こう言う時は仕方ねぇ。今まで何度か人の家に泊めてもらった事があるんだけどよ、その時に妖怪だと誤解されて、追い出されちまった時もあるんだ。俺の家系は全員方向音痴だから、家族に会う事だって一年に数回ぐらいだ。……家族以外の奴らと一緒に旅するなんて初めてだぜ。」
「…………。」
ふと、あかねは気づいた。会ったばかりの時はそれこそ強引、わがままな感じがした。司が自分で女である事を言うまで。しかし、今は口調は男であるがそんな感じはしない。
「あ゛ー……他人とこんなに長く話したのも初めてだな。」
最初はまた自分が妖怪と誤解されないか、そういう警戒心があったのだろう。それが無くなった今、不器用ながらも初めて他人に心を開き始めているようなのだ。
(司ちゃん、本当は独りぼっちで旅しているのが怖かったんだ……)
「……俺、温泉出たらまた水かぶるぜ。」
「ダメよ、そんな事したら風邪ひいちゃう。」
「いや、俺はもう男でいる方が慣れちまったからな……それと、俺が女だってこと他のどんな奴らにも言うなよ。俺への扱いは今までと同じように男のままでいいからな。あいつらにもそう伝えてくれ。」
「…………。」
岩の後ろで、らんまが小さく言った。
「良牙……おめーのご先祖様もいろいろ大変なんだな。」
だがその一言は、大いに良牙をびびらせた。
「て、てめーいつからそんな事を……!」
「方向音痴の家系なんておまえの所の他にどこがある。相変わらずあかねは気づいてねぇみたいだけどな。」
「っ………」
「これであいつが方向音痴でなければ、和風男溺泉の場所教えてもらって俺たち普通の体に戻れるってのに。」
「今は元の時代に帰る方が先だろーが!」
「それもそうだけどよ……」
急に、二人の後ろで声がした。
「二人とも、私達上がったわよ。」
「おまえら、さっきからひそひそがさごそ何話してたんだ?」
「な、なんでもねぇっ。」
その後、乱馬達はそれまでのドタバタが嘘のように眠った……。
「……………」
まぶしい日の光で、かごめは目を覚ます。
(あれ?確かあの時私は妖怪の炎を受けて……)
そう思って自分の服を見るが、どこも焦げてはいない。足下には草がたくさん生えていて、ここは村の中ではなさそうだ。
(それを涼子さんがかばってくれて………涼子さん!?)
かごめは辺りを見回す。と同時に、目を丸くした。
目に飛び込んできたのは、たくさんのコンクリートの建物。自転車をこぐ人もいる。さっきまで自分がいた戦国時代でないのはすぐにわかったが、なぜか自分のいる現代でもない感じがする。
目を近くに移すと、コンクリート製の巨大な橋がある。その下には戦国時代よりもずっと汚れた川が流れている。その横に、涼子が座っていた。
(またこの時代に来てしまった……一年ぶりに……)
涼子は何やら物思いにふけているようだった。
「涼子さん……?」
「あ、気がついたんだ。大丈夫?」
「うん。でも、ここは……?」
「そう。あなたも、ここから戦国時代にいったんでしょ?」
「そ、そうだけど……」
(どこか、違う感じがする……)
「かごめっ……!」
(ちくしょう、よりによってあんなザコにかごめが……!)
ずっとうつむいたままの犬夜叉。宿丸も下を向いているが、犬夜叉のような事は言っていない。表情も少し違うようだ。
「宿丸、おめぇの気持ちもわかるんだけどよぉ……」
「んだんだ、かなりべっぴんだったしなぁ。」
「……違う。」
「ん?」
「涼子は死んでなんかいねぇ。かごめとかいう女もな。」
「ほ、本当か!?」
「ああ。俺も昔……涼子に助けられた……」
「あたしは怖い炎を見ると、こんな風にタイムスリップしてしまう力があるの。最初はあなたもそうなのかなって思ったけど、あたしと違って火は怖くないみたいね。」
「私は……ある所を使って行き来しているのよ。ところで、ここの世界は西暦だといくつなの?」
「確か、昭和58年……1983年だったかしら?一年も戦国時代にいるから、もう忘れかけているわ。でも、あなたの方がここに来てまだ短いと思うのに……なぜそんなことを聞くの?」
当たり前だという感じで涼子は話している。かごめも同じ時から来ていると思っているようだ。
しかし、かごめにとってこの時は「未来の過去」である。
(83年……!?)
「……私は2003年から戦国時代と行き来しているの。」
「え……!?」
思っていなかった言葉に涼子はびっくりした。
「だから、他にも涼子さんとは違う所がたくさんあると思う。でも、一つだけ共通している所があるの。」
「……それって……?」
「あの時代で、大切な人を見つける事が出来た事…………」
「……………」
二人は、しばらく空を見ていた。雲の間を飛行機が通り過ぎていく。
色々違ってはいるけれども、戦国と現代を詳しく知っている二人。あの時代に、大切な人がいる二人。お互い、他人とは思えなかった。
「ねえ、戦国時代に帰れる?犬夜叉が心配しているわ。」
「うん。あたしも……宿丸が心配している。」
犬夜叉と宿丸たちは、戦の跡地に来ていた。かごめと涼子を探しに。
しかし、見えるのは無惨な死体や骨ばかり。
「……本当にこんな所にかごめが来るのか?臭いすら全然しねぇじゃねえか。」
「俺が涼子と一緒の時はここに来たんだよ。」
「でも、確かにあれは炎に巻かれたようには見えんかったのぅ……」
七宝はかごめと涼子に妖怪の炎がぶつかる瞬間を犬夜叉と宿丸よりも近くで見ていた。ぶつかったのではなく、その直前に二人がふっと消えたように見えたのだ。
「かごめちゃん、いるかなぁ……」
「きっといますよ。我々にとってかごめ様は大切な存在ですから。」
涼子とかごめは、ガスタンクの横の道を歩いていた。
「こんな所で……本当に帰れるの?」
「うん。そろそろよ……」
涼子はかごめの手を握りしめた。
「かごめちゃん、しっかり握って。離れてしまったら、どこの時へ飛ばされるかわからない。」
「う、うん……」
かごめも涼子の手を握り返した。ふと振り向いてみると、着物姿ではないあの時見たセーラー服を見た涼子が二人、立っていた。
(え……!?)
一人の涼子は小さな男の子を連れ、もう一人の涼子はあの宿丸という人と抱き合っていた。少し、ガス臭い臭いがする。
(これは一体……)
そう思う間もなく、目の前にあったガスタンクが爆発した……。
「もうすぐ朝になるぞ……」
徹夜で探している犬夜叉一行と宿丸、村人たち。
「宿丸……もうあきらめねぇか?」
「俺は絶対にあきらめねぇっ。」
「俺も……かごめを信じてる。」
そのうちに朝日が昇ってきた。と同時に、ふっと急に二つの影が現れた。一瞬幻かのように見えたが、そうではなかった。
……かごめと涼子が、犬夜叉と宿丸の目の前に現れたのだ。
「かごめちゃん…もう目を開けていいわよ。」
「え……」
かごめはそう言われて目を開ける。そこは、元の戦国時代だった。
いきなり現れたのだろう。犬夜叉も、宿丸も少し驚いているようだった。
「涼子、おまえ……」
「うん……」
「かごめ……?」
「犬夜叉……!」
涼子とかごめは手を離し、それぞれの「大切な人」と抱き合った。人の目も見ずに……。
「のう……弥勒。かごめはどうしたんじゃ?あの村を出てから何か様子が変じゃ。」
かごめは何か遠くを見るような目をしながら歩いている。犬夜叉が何度聞いてみても、一言も返事は帰ってこない。
「涼子様と「あちらの世界」で何かがあったのでしょう。それに違いありませんな。」
犬夜叉達はかごめから、あの時涼子が不思議な能力で自分を助けた事だけ聞いていた。それ以上かごめは何があったのか話さなかった。
「けっ、何かあったのには違いねーけどな。」
無理矢理犬夜叉が聞こうとしてもおすわりで止められたため、本当に何があったのかわからないのだ。
「かごめちゃん、本当に何があったんだろう…?」
(涼子さん、また会えるよね……今回は突然の事もあったりしてほとんど何もできなかったけど、今度会えたらいろんな事を話したいな……………)
次へ進む 前へ戻る
う〜ん……なんだかアニメ犬夜叉に不満を言えなくなってきたなぁ。自分で書いてるのだってものすごい消化不良な話だし。
今回の犬夜叉サイドは独立させた一つの話の方がよかったな、絶対。
で、この前2002年だったはずの現代が2003年になっているのは私が書いていた時の年だという訳で……(^_^;)
あ、それから司は次回の話にも登場します。