す〜ぱ〜るーみっく  〜暴走する二人の主人公〜




 乱馬、あかね、良牙の三人は、草原を歩いていた。
 その草のほとんどは……エノコログサとまたたび。
 「あかねぇ……何か俺いやな感じがするんだけど。」
 「なんで?」
 「だって……」
 乱馬が理由を言う間もなく、足に何か柔らかい、暖かい物がぶつかった。
 「ね゛………?」
 足元を見ると、そこにいたのは……やっぱりネコ。
 「うぎゃ――――――っ!?」
 あっというまに乱馬は全速力で走って行ってしまった。
 「ちょっと乱馬、待ちなさいよ!良牙くんも追いかけましょっ。」
 「あ……はい。」


 良牙とあかねは乱馬を追いかけるが、ちっとも追いつかない。
 あの後、至る所にネコがいるので乱馬はますますわめきながら逃げる。
 (ったく、あいつはなんであんなにネコが嫌いなんだっ。)
 良牙は最初、乱馬を早くつかまえなければとあかねより前を走っていた。しかし、追いかけているうちにだんだんそれが面倒になっていた。
 (……そうか、乱馬の奴なんか追いかけなくてもいいんだ。乱馬をこの時代に残したまま俺とあかねさんだけでこの世界に戻れば……)
 でも、あかねは乱馬を追いかけるのに夢中である。
 (まず、あかねさんに何というか……)
 良牙がそれを考えようとした時、
 「ん゛!?」
  <どてっ>
 思いきり石につまづき、こけてしまった。
 「ってぇ……」
 さらに、
 「乱馬―――っ!」
  <みしっ>
 「…………」
 後ろから走ってきたあかねに頭を踏まれてしまった。あかねは振り向きもせず、乱馬を追いかけていった……。





 こちらは、犬夜叉一行。
 「ちっくしょー……」
 (まだ鼻が痛ぇ……)
 「犬夜叉、大丈夫?」
 「……頭痛までしやがる……」
 犬夜叉のあの後、ほとんど何も食べなかった。ラム、あたると別れた後、気力が尽きたように倒れてしまったのだ。
 「そんなに昨日の不思議なおなごの電撃がすごかったのか?」
 「あの弁当の臭いがきつすぎたんだよ!」
 今は一応歩けるみたいだが、まだ完全には治っていないらしい。
 「こんな時に奈落に襲われたらまずいですなぁ。」
 「そうだね、法師さま。」
 そんな時……。

  <どたたた……>

 何か向こうから走ってくるような音が聞こえた。
 (ちくしょう、鼻がつんつんして誰だかわからねぇ!)
 それは人間で嗅ぎ覚えのある臭いだったが、それ以上は今の犬夜叉には分からなかった。
 しかし……。

 「ね゛ご〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 叫び声で誰だかあっと言う間に分かったのだった。
 しかも半べそ状態でこっちに向かってくる。

  <キュイン……>
 「ね゛……」
 「わ……」

 一瞬周りの風景が歪んだ。それはすぐ治まったが、その一瞬だけ乱馬と犬夜叉が動かなくなる。
 ……魂交差だ。

 「て……てめー何やってんだよ!」
 「ねごがいるのー、ねこがぁ……」
 「ねこぐらいでどーかしたのか?」

 「はぁ……やっと追いついた……。」
 そこへ、やっとあかねが来た。
 「あかねちゃん……大丈夫?」
 かごめは良牙がいないことに気づく。
 (良牙くんはまだ迷子なのかな……)
 「うん……大丈夫。また乱馬と犬夜叉ケンカしてんの?」
 「今ちょっと入れ替わっちゃってるから……」

 <キュウッ……>
 「あ゛……」
 「やっと戻った……」
 「てかおめぇ、たかが猫ぐらいでわんわん叫んで逃げてんじゃねーよ!」
 (本当にこんな大馬鹿者が俺の500年後の姿なのか!?)
 「いやなもんはいやなんだよ!」
 (なんでこんな奴が俺の前世でなくちゃいけないんだよっ。)

 「……乱馬くんって、ネコが嫌いなの?」
 「そうなのよねぇ……」
 「ここら辺は『猫ヶ原』といって猫がいっぱい住んでいる所なんだ。乱馬くんにはちょっときついかも……」
 「それにしても、犬夜叉と違ってかわいい弱点ですなぁ。」
 「かわいくねぇっ!」
 「乱馬、落ち着いて。あ、かごめちゃん、南蛮ミラーは?」
 「ごめん、まだなの……」
 「そう……」
 そんな話をしているとき、
 『きゅう?』
 急に珊瑚の肩に雲母が姿を見せた。乱馬とあかねは雲母を知らない。
 「ね゛……ね゛ご〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
  <どんっ>
 「だぁ!?」
  <どどどど…………>
 乱馬は驚きのあまり犬夜叉に正面からタックルし、そのまま犬夜叉を巻き添えにして全速力で走っていってしまった。
 「……珊瑚ちゃん、その子は?」
 「あの時言わなかったっけ?私の猫又、雲母って言うんだ。」
 「珊瑚、今はそれどころじゃないぞ!」
 「わかってるよ七宝。雲母、今は隠れてて。」
 『きゅうっ』
 「早く追いかけましょう。二人は森に向かっている。」
 「うん。わからなくなる前に……」
 「それどころじゃないよ。ここら辺の森は化け猫のなわばりが多いんだ。」
 「え………」
 (犬夜叉はとにかく、乱馬くんは……)




 「てめぇ、止まれって言ってんだろ!」
 「止まりたくない〜……。」
 犬夜叉は何度か乱馬に言いかけるがちっとも聞かない。殴ってもさえ効果なし。
 (この野郎……)
 「止まれっつーてるのが……わからねぇのか―――――!!」
 思いっきり乱馬の耳元で叫んだ。これには乱馬もたまらず、少し速さが落ちる。しかし、落ちたのはほんの少しの間だけのことで……。
 止まろうとした丁度そこにまた猫がいたのだ。
 「わ゛〜〜〜〜〜〜〜!!」
  <ぎゅるっ だだだだ……>
 犬夜叉の頭を踏み越え、そのまま走って行ってしまった。
 「……待ちやがれ――っ!」
 二人は森の中へ入っていった……。
 (あのバカ野郎、よりによって妖怪の臭いのする方向に行きやがって……)




 「二人とも……見失いましたね。」
 「私だけ雲母に乗って先に行く?でも乱馬くんが猫嫌いなんだよね……。」
 「見つけたらすぐに戻ればいいんじゃない?珊瑚ちゃんだけで行っていいわよ。」
 「あの……乗るってどうやって?」
 「あ、あかねちゃんは知らなかったね。雲母!」
 珊瑚が叫ぶと、ついさっきまで子猫ほどの大きさだった雲母は炎を上げて、たちまち巨大化した。
 (へ……変化した!?)
 「あかねちゃんも乗る?二人でも平気だよ。」
 「う、うん。」
 珊瑚とあかねを乗せた雲母は空高く飛んで行く。そして、そのあとを弥勒、七宝、かごめが走っていった。
 「こ……この子空も飛べるの!?」
 「うん。私は左の方を見るからあかねちゃんは右の方を見てね。とにかく今は犬夜叉と乱馬くんを見つけるのが先だよ。」
 「わかったわ。」




  <どげん……ばたっ>
 乱馬は木に勢いよくぶつかって倒れ、やっと止まった。
 気絶しているが。
 (ったく、どうやったらたかがネコをあんなに嫌いになれるんだよ…………ん!?)
 奥から妖怪の臭いがする。それも化け猫の。
 (……ややこしいことになっちまったぜ。)
 『このわしの縄張りに入ったのはおまえらかぁ?』
 「入りたくて入ったんじゃねーけどな。」
 その化け猫は、大きさは犬夜叉より一回りほど大きいだけだったが二本足で立つことができ、目が鋭く、耳もとがっていて、かなりの剛毛。そして、全身真っ黒。
 『でも入ったことは確実だ……我が爪で引き裂いてくれる。』
 化け猫は爪を出して構える。
 「けっ、やりたきゃやってみな!」
 犬夜叉も鉄砕牙を抜いた。
 (てめぇ……しばらく目ぇ覚ますんじゃねぇぞ。)



  <ガッ!………キィィン……>
 「………?」
 何か刃物がぶつかり合うような音を聞いて、乱馬は目を覚ます。
 「!?!」
 すると、そこに見えたのは犬夜叉と……化け猫。しかも、猫魔鈴みたいなかわいいのではない。
 (ね゛……ね゛ね゛ねごご……)
 その犬夜叉とも互角に戦っている化け猫の姿に、乱馬は今までの猫とは比べ物にならない、声にも出せないとてつもなく大きな恐怖を感じた。
 そこから、自分は何を思ったのか覚えていない。
 「……にゃ〜ご。」
 乱馬はゆらりと四本足で立ち上がった。


 (ちくしょう……まだ体がいつもの調子じゃねえ!)
 化け猫は以外と素早い。犬夜叉の鉄砕牙をなんどもかわす。しかし、今の犬夜叉を苦しめている一番の原因は、やはりあの時のラムの手料理であろう。
 『達者なのは口先だけか?』
 「化け猫……てめぇ調子に乗ってんじゃねーっ!」
 犬夜叉は化け猫の爪を避け、頭から真っ二つに斬りつける。
 ……はずだった。

  <ガッ>

 「!?」
 何か後ろからとても早い影が、犬夜叉の鉄砕牙をはじいたのだ。鉄砕牙は後ろの方へ落ち、変化が解けてただの錆びた刀になる。
 「にいっ……」
 見ると、それは乱馬だった。目つきがすっかり変わっている。
 (こいつ……猫が苦手じゃなかったのか?)
 「ににっ♪」
 しかしどういうわけか、乱馬は鉄砕牙を叩いてみたり転がしたり、猫のようにじゃれていた。
 「てめえ、何やって……!」
 『よそ見している時か!』
  <ザッ>
 「ぐっ……」
 …乱馬に気を取られていて反応が遅れた。犬夜叉は化け猫に激しく腹を切り裂かれる。
 『ふふ……我が爪の毒はすごいぞ?人間がくらえば数分で死んでしまう…』
 「けっ……それは人間だったらの話だろーが!」
 口は強気だったが、かなりの激痛が体中に走っていた。木につかまって立つのがやっと。
 『ならさっさととどめを刺して……な゛!?』
 化け猫が犬夜叉に何か言おうとした時、今度は乱馬が飛びかかってきた。化け猫は避け、乱馬は木にぶつかったが、乱馬はそれを猫が爪を研ぐようにバリバリひっかく。木からは、かんなでけずられたようにぺらぺらのくずが出てくる。
 『……今度はそっちが相手か?』
 「ふーっ……」
 一人と一匹は体勢を立て直す。化け猫は乱馬を爪で切り裂こうとするが、乱馬はひらりと身をかわして何度も化け猫をひっかく。
 (あの野郎……一体どうなっちまったんだ……?)
 犬夜叉は傷口を押さえながらそれを見ていた。本当は傷が治りかけたらまた攻撃をする所だったのだが、傷はふさがるどころがだんだん大きくなってきている。手足は痺れ、ほとんど動けない。自分の体が熱くなってきているのを感じた。
 (ち……ちくしょう………)
 そのうち、意識は薄れ……完全に消えた。



 『貴様、よくもちょこまかと……』
 「に゛いぃっ……」
 『とっとと引き裂いてくれる!』
 「にっ!」
 乱馬は化け猫が攻撃をする前に、木の上に飛び退く。
 『ん……どうした?今頃おじけついてももう遅………!?』
 しかしそれは、すぐ後ろからもっとおそろしい気配がしたからであった。
 『―――――――!?』
  <バキバキバキッ>
 気配は犬夜叉。さっきまでの苦戦がうそのように、化け猫をばらばらに切り裂いた。化け猫は断末魔を上げる暇すらなく、肉の切れ端となって地面に転がる。
 「俺はこんなことじゃくたばらねぇんだよ。」
 しかし、犬夜叉の目は真っ赤で爪も長くなっていた。犬夜叉は木の上にいた乱馬と目線を合わせる。
 「ふ―――っ……」
 乱馬はネコのような威嚇をする。
 「次に俺の爪を楽しませてくれるのはおまえか?」
 二人とも、正気ではなかった……。




 「さ、珊瑚ちゃん……あれ何!?」
 「え!?」
 あかねは東に見える森の中へ指を指す。その森は緑色に輝くとても美しい森だったのだが、あかねが指を指した所だけ、なぜか全て木が倒れたり折れたりしているのだ。木々はある方向に向かってどんどん折られていく。それが最初に起こったと思われる所には、何やら黒ずんだ物が見えた。
 「法師様、あの森の中へ行くよ!何かある!」
 「わかった、珊瑚。」
 「なんかおら、嫌な予感がする……」





 (ちくしょう……乱馬もあかねさんもどこに行っちゃったんだ?まず、ここは一体どこなんだ?……えぇい、こういう時は……)
 「爆砕点穴!」





 「な、何これ……」
 「何か……あったようですね……」
 森の中でかごめ達が見た物は……まず、体がバラバラになった無惨な化け猫の死体。死体と言うよりもうただの肉の切れ端がいっぱい落ちているといった感じである。頭の部分でなんとかそれだとわかった。周りを見る限りその戦いの激しさがよくわかったが、不思議なことにひびが入ったり折れたりしている木の中に、まるでネコが爪とぎをしたような跡があるのだ。しかもそれは化け猫の手の大きさより小さいことから、化け猫が引っ掻いて出来た物ではない。
 「すごい……まるでかんなで削った跡みたい。」
 「一体何があったんじゃろ?」
 そして、何よりも大変なことは……
 「こっ、これ……」
 犬夜叉の鉄砕牙が落ちていたこと。
 「……あかねちゃん、早く行こう。多分、犬夜叉が大変なことになっているから。」
 「そうなの?……でも…きっと、乱馬も大変なことになっていると思う。」
 「乱馬くんも!?一体どういうこと?」
 「どうって、一言じゃ言いづらいんだけど……大雑把でいい?かごめちゃんの言っていることも気になるし。」
 「いいわよ。私も、犬夜叉のこと言いづらいから。」
 「うん。本当に言いにくいんだけど…」
 「私も大雑把なんだけど…」

 「「暴走してるの。」」

 あかねとかごめが言ったのは、ほぼ同時。
 「ぼっ……暴走……!?」
 「あかねちゃんもそう言ったわよね…」
 「二人とも、話は走りながらです。まだあの二人は遠くへ行っていない。」
 そこから先、乱馬と犬夜叉がどこへ行ったのかは見るだけでわかった。なぜなら、二人が行ったと思われる方向には木がバキバキ倒されていたり、猫が爪で研いだような跡があったのだから。



 「何か……音が聞こえる。」
 「もう近くにいますね。」
 その時、かごめの腕に上から赤いしずくが落ちてきた。
 「ん?」
 (血……?)
 かごめ達が上を見上げた瞬間、


  <ザザッ>


 「!?」
 空中で赤い影が二つ、急に飛び出してきた。その影は、とてつもない速さで交わったり離れたりしている。その内一方は木にぶつかるとたまにへし折ったり倒したりする。もう一方は木をかんなのようにけずり、そのくずが空中に飛んでいた。
 「は、速すぎて目が追いつかない……」
 「なんなんじゃありゃあ!?」
 影は別々の木の上で止まり、ようやく正体がわかった。
 ……乱馬と犬夜叉。二人とも服がボロボロ。どうみても、正気ではない。

 「人間でここまでやる奴は初めてじゃねえか……もうしばらく楽しませてもらうぜぇ!」
 「にゃごっ!」

 二人はまた素早い動きで交わる。そのたびに木の葉や小枝、それに服の切れ端や血らしき物が周りに飛び散る。二人とも、かごめ達には全く気づいていないようだ。
 「二人とも、我を亡くしている……」
 「す、すごい……」
 かごめ達はしばらく声を出すのも忘れて、犬夜叉と乱馬に見とれていた。
 犬夜叉が乱馬に上から襲いかかる。乱馬はさっと避け、木に着地し、すぐにまた犬夜叉に飛びかかる。犬夜叉も乱馬に向かって飛びかかり、二人が交わっていろいろな物が飛散する。
 だが、そのうちに少しずつ乱馬が犬夜叉に押され気味になってきた。自分からはあまり攻撃できなくなり、犬夜叉の攻撃をかわすことが多くなる。
 「きゃっ!」
 かごめのすぐ横に折れた木の枝が落ちた。それで、かごめ達はやっと我に返る。
 「ど、どうしよう……あかねちゃん、乱馬くんを止める方法ってあるの?」
 「あるけど……かごめちゃんは?」
 「なんとか。犬夜叉、おすわり!」
  <どがっ>
 犬夜叉はかごめの一言で地面に叩き付けられる。
 「っ……」
 それでも立ち上がろうとする犬夜叉に、
 「おすわりおすわりおすわりおすわりおすわり―――っ!!」
更に連発。
 「…………。」
 (すっごく強引な止め方……こういうのが乱馬にもあったらいいのに。)
 「やっと起きなくなった……。」
 かごめは犬夜叉の上に鉄砕牙を置く。
 (乱馬くんはどうするんだろう…?)
 「ふ―――っ……」
 動かなくなった犬夜叉を警戒しているのか、まだ乱馬は戦う体勢をとっている。
 「ちっちっちっちっちっ。」
 「に……?」
 そこへあかねがおいでおいでと手を振る。乱馬は最初、あかねをじーっと見ていたが少し顔がにんまりして、
 「にゃっ。」
あかねにとびかかった。
 「あかねちゃん、危な……!?」
  <どさ……>
 「…………。」
 乱馬は、あかねのひざでゴロゴロ喉を鳴らしていた。毛繕いまでしている。
 「な、なついてる……!?」
 「これしか、止める方法がないの。」
 (ちょっと恥ずかしいけど……)
 「ようやく、落ち着きましたな。」



 「乱馬はね……猫への恐怖心が極限を越えると、自分自身が猫になりきっちゃうのよ。でも、その状態の乱馬とそれ以上に戦える相手なんて久しぶり。」
 「犬夜叉は、自分の命が危険になるとあんな風に本物の妖怪になってしまうんだけど、人間で互角に戦える相手なんて初めてよ。」
 「………。」
 七宝はどこからかねこじゃらしを出し、乱馬の前で振ってみる。
 「にゃにゃっ。」
 すると、じゃれた。
 「……本当にネコになりきっとる。」
 (犬夜叉もそんな感じだとかわいいんじゃがのう……)
 「鞠でもあったら遊ぶんじゃありませんか?」
 「ちょっと法師さま、乱馬くんは本物の猫じゃないんだからね。」



 「う゛っ……」
 犬夜叉の目が少し開いた。瞳は元の姿になっている。
 「犬夜叉、気がついた?」
 「ああ……」
 犬夜叉は首だけ動かして周りの様子を見ていたが、乱馬を見たとたん何か思いだしたようにがばっと起きあがり、あかねと乱馬の所に来て
 「てめぇ何しやがる!」
 と思い切り怒鳴った。
 「に……?」
 乱馬は気持ちいい所を邪魔されて不満なのか、犬夜叉を睨む。
 「おめーがあんなことしなけりゃ俺は……」
 「に゛っ。」
 その時、バリッという音と共に犬夜叉の顔に赤い線が現れた。あかねはどう言えばいいのかわからず、少しおろおろしている。
 「……この野郎、いいかげんにしねぇとぶっ殺……!」
 「おすわりっ。」
  <ぐしゃ>
 「ってかごめ、何しやがる!?」
 「あ、あのねえ、今の乱馬くんにはそういうこと言っても意味ないの!」
 「その……こっちから話すね。」
 あかねは、犬夜叉に乱馬の猫化のことを話した。乱馬はあかねの膝でのんきに毛繕いをして、それが終わると丸くなって眠り始める。
 「けっ……ったく人騒がせな事しやがって。」
 「でも犬夜叉、もし乱馬が猫化していなかったら、おまえは乱馬をも切り裂いていたのかもしれないのですよ?」
 「…………」
 自分の爪からは、化け猫の臭いの他に、乱馬の血の臭いも少ししていた。
 「……言っとくけどなぁ、あいつも少し悪いんだよ。」
 「どういうこと?」
 「俺が鉄砕牙である化け猫をたたっ斬ろうとした時に限って変態のやつが鉄砕牙をはじき飛ばしやがったんだよ!俺の鉄砕牙を叩いたり転がしたり何やってんだか……」
 「つまり、犬夜叉より乱馬の方が先に変になったんじゃな?」
 「大体結局は変態が猫嫌いでなかったら、こんなややこしいことにはな……」
 その時、
  <ドォー……ン>
 「何?」
 地面の下から、何か爆発音がした。
 「また妖怪か!?」
  <ドォー……ン  ドォー……ン>
 しかもそれは、少しずつかごめ達の所へ近づいているようだ。
 「……心配するな、これは妖怪の臭いじゃねえ。確かおまえらと一緒にいた奴だな。」
 「それって良牙くんのこと?」
 (そういえば……かごめちゃん達に会った時、良牙くんいなかったような……)
 ここで、やっとあかねはさっきまで良牙がいなかったことに気づく。
 「人間がどうやってこんな所を掘って来るんじゃ?」
 七宝の言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、
  <ぼこっ>
 「……ここはどこだ。」
 良牙がでてきた。
 「良牙くん……どこ行ってたの?」
 「あ、あかねさん。」
 いきなりあかねがすぐ横にいたので、思わず顔が少し赤くなる。
 「いや、その、乱馬を探している途中で少し迷ってしまいましてねぇ……ぇ゛!?」
 あかねの膝には幸せそうな顔をした乱馬がすやすやと寝ていた。
 「……貴様―――っ!」
 「ふにゃ?」
 良牙はいきなり乱馬の首元を掴む。
 「あ、良牙くん、ちょっと……」
 「貴様一体あかねさんに何をしていた!?」
 その後、数秒ほど間があってから、
  <みし……>
 「俺が何をしたっていうんだよ?」
 乱馬はそう言いながら良牙を殴った。

 「なんか……」
 「元に戻ったようですね。」

  <ばき>
 「とぼけるんじゃねえ!ついさっきまであかねさんの膝ですやすや寝ていただろーが!」
 と良牙が叩けば
  <どか>
 「……俺はなんにも覚えてねぇぞ。」
 と言って乱馬も蹴り返す。あかねは急な展開に、ただ二人をぽかーんと見ていた。
 (そうか……俺あの後猫化していたらしいな。なんか体中がすっごく痛ぇ。)

 「本当に何も覚えていないんだ……」
 「長引きそうなケンカじゃのう。」
 「…………。」

 しかし。
 「大体なぁ、俺も困ってんだよ。毎回ああなるたびにあんなかわいくねぇ女の膝に座らなきゃいけねぇんだからな。」
 この一言があかねをも怒らせてしまった。
 「あーんーたーねーえー………」
 「へ?」
 あかねは近くにあった自分と同じくらいの太さの木をめきめきと折ると、
 「人がせっかく助けてやったのにその言い方は何よ!?」
 「たわ!?」
 乱馬に突きだしてきた。ぎりぎりで乱馬は避ける。
 「あかねさんへの暴言、許せんっ!」
 「おい、てか二人とも……」
 その時に限ってまた
  <にゃー……>
 あの鳴き声が。
 乱馬の足下にまたまた猫がいたのだ。ここの猫は乱馬によくなつくのだろうか。
 「ね゛ご――――――っ!!」
 「ちょっと乱馬!」
 「待ちやがれーっ!」
  <どどどど………>
 こうして三人はあっという間に犬夜叉一行から去ってしまった。
 「……行っちゃった……」
 「けっ、そっちの方がよっぽどラクでい。」
 「私たちも行きますか。犬夜叉も元気になったみたいですし。」



 「なんか思ったんだけどさ、もしかして良牙っていう人、あかねちゃんのことが好きなんじゃない?」
 「え……!?」
 いきなりの珊瑚の言葉にかごめ達は一瞬びっくりしたが、考えるうちに納得してきた。
 (言われてみれば、あの態度……)
 (そうにも見えるのう……)
 「はぁ?何言ってやがる。」
 犬夜叉を除いて。
 「って犬夜叉、わからないの?」
 「珊瑚の言った事で今思ったのですが、もしかすると良牙は鋼牙の生まれ変わりかもしれまんね。」
 これに犬夜叉はもっと訳のわからない顔をするが、かごめ達はうなずく。
 「法師さま……それ案外当たってるかも。」
 「なんか名前も似てるし……」
 「ということは、恋敵は500年経っても恋敵なんじゃな。」
 七宝の言葉に犬夜叉の耳がピクッと動いた。
 「てめぇらうるせーっ!!」
 少しだけだが、犬夜叉も理解したようである。
 (そんなこと考えたくもねぇっ。)

大体ここまでの執筆更新日:2003年12月16日
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というわけで……なりそこないのシリアスです(ぉ
でも、猫乱馬と妖怪犬夜叉を一度戦わせてみたいという夢はできたのでまぁいいか。
「乱馬は驚きのあまり犬夜叉に正面からタックルし、そのまま犬夜叉を巻き添えにして……」の所はかなりわかりづらく感じたので、一応私が試しに書いてみた(?)挿絵がここにあります。
……やっぱり変かなぁ。

るーみっくへ
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