す〜ぱ〜るーみっく  〜それぞれの災難〜




 「……ここはどこだ。」
 森の中をがさがさ歩きつつける良牙。
 (くそっ、また迷子になっちまったか。食料は見つかんねーし、変な動物はいるし、それに……)
  <がっ>
 「な゛っ!?」
  <どんごろごろごろ…>
 「な゛な゛な゛な゛な゛……」
  <どばしゃーん>
 どういうわけか、いきなり崖から足を踏み外して川に落っこちてしまった。もちろん、川からはい上がってきたのは黒い子ブタである。
 『ぶきっ…』
 (…流れが速くなかっただけよかったぜ。とにかく、あかねさんのいる所に戻らなくては……)



 こちらは乱馬とあかね。
 「んーと、寝袋が一つしかないのはあいつのことだから仕方ないな。」
 「これはー…着替えね。」
 「やっぱいろいろあるなー。」
 あかねに比べて、乱馬はぽいぽいとリュックの中身を出している。
 「乱馬、そんなにぐちゃぐちゃに出さない方がいいと思うんだけど……」
 「そうか?」
 「そうだってば……ねえ、この地図何?」
 それは、かなり古そうなボロボロの地図。
 「…良牙の奴、懐かしい物もってんじゃねーか。」
 「だからなんなの?」
 「ん……えーと、あのー、すんごい前に俺と良牙が女子更衣室でなんやらかんやらあっただろ?あん時の和風男溺泉の地図だよ。」
 「ふーん…って、今はそういうの見ている場合じゃないでしょっ。」
 「…おめーが何かって聞いたんじゃねーかっ。」



 (ったく、本当にここはどこなんだ。)
 相変わらず森の中。川に落っこちてからずっとPちゃんのまんま。
 「ん?」
 『ぶき…』
 (え゛?)
 急に誰かにひょいと掴まれた。乱馬でもあかねでもなく、さっき出会ったよくわからない奴らでもない。
 「……なんだこいつは。」
 鎧に毛が生えたような服に茶色いバンダナ。ポニーテールの髪型をしていて、なぜか尻尾が生えている。少し怖そうな顔つきだ。
 今までにもPちゃんになった時に誰かに掴まれたことはよくある。そして、大抵は投げられるか食べられそうになるか。ただ、今回はそれ以上に嫌な予感がした。
 「見たことのない動物だなー…」
 『ぶきぃっ…』



 (こいつのリュック……四次元ポケットか?)
 あの後リュックの中からは恋の釣り竿やら年の数茸の森の地図やら、とにかく懐かしいようなどうでもいいような物がいっぱい出てくる。
 「良牙君の家にはいろんな土産が置いてあるけど、こういうのは置いていかないのかしら……」
 「俺に言われてもわかんねーって。とにかくまだまだあるみたいだし。」
 「ところで良牙君、まだ帰ってこないんだけど……」
 「だからさっきから言ってるだろ、絶対迷子になったって。」
 「大丈夫かなぁ…。」
 「あいつのことだから絶対大丈夫だって。」



 『ぶきぃーききっ』
 Pちゃんはその手の中で暴れていたが、気づかれもしてないらしい。しばらくすると、向こうから仲間と思われる人が見えてきた。
 「鋼牙、その手に持ってるもんは何だ?」
 「俺もよくわからねえ、ただそこら辺にいて変な格好してたから捕まえてきただけだ。」
 (…変な格好で悪かったな。)
 「こいつ……人間か?変な動物だけど、どう嗅いでもこの臭いは人間だよなぁ。」
 「ああ……多分こいつ、どっかの妖怪に化かされてそういう姿にされたんだろうな。」
 『ぶきっ…』
 (…………)
 当たからず、遠からずといった感じである。
 「でもこいつ毒でもなさそーだし、みんなで食えばどうだ?」
 「みんなでって言われても小っちぇーしな、こんなの一人分にもならねーぜ。」
 「だよな……あ、狼たちの練習ににはちょうどいいんじゃない?あいつら最近あまり働かせてないし。」
 「そうだな……おーい、おめーらちょっと来い。」
 鋼牙とか言う人がそういうと、周りから狼がいっぱい群がってきた。
 (なっ……これって…もしかして…)
 「おい、俺たちはもう少し見回りしてるから、その間おめーらはこれでも食っていな。」
 そう言い終わった瞬間、Pちゃんはその手から、狼の群の中へ投げられた。
 『ぶきっ!?』
 (やっ、やっぱり〜っ!)



 (やっとあった……)
 どうやら一番下に入っていたらしい。
 「でも、なんでみんなほとんど賞味期限切れてるのかしら。」
 「あいつのことだからだろ?少し切れてるやつでもあいつ腹壊しそうな感じしねえだろーが。」
 「……そういうもんなの?」
 「そういうもんだろ……ん?」
 「どうしたの、乱馬。」
 「これ…『あかねさんへ』と書いてあるんだけど、なんだ?」
 「どれどれ……『鳥取土産の魚沼コシヒカリ』……?」
 「新潟に行ってたらしいな。」
 その下には、『あかりちゃんへ 青森土産の輪島塗』なんかもある。
 (ま、こっちはそのままにしておこう……)
 「さっきはんごうとマッチもあったし…ご飯は炊けそうね。」
 「作るんだったら俺だけで作るからな。」
 「なんでよっ。」
 「おめーが料理作ったら食えるもんでも食えなくなるだろ。」
 「…それってどういう意味よ!」
 「言ったまんまだろ。」
 「あんた、私にごはんも炊けないって言いたいの!?」
 「ん゛……そーだよっ。」
 「なっ、何よ乱馬のバカ!」
 「料理もできねぇおまえの方がバカでいっ!」
 このケンカはしばらく続くのであった……。


 (ら……乱馬のバカヤローッ!)
 なぜあの人らではなく乱馬なのかは知らないが、良牙はそう叫びたかった。Pちゃんの姿なので叫べないのは言うまでもないが。
 あの後、三人はどっかへ行ってしまった。そして、Pちゃんの後ろから狼がものすごい勢いで追いかけてくる。今までPちゃんの姿の時に動物に追いかけられるのは何度もあったが、群れで追いかけられるのは初めてだった。
 とにかく今は逃げているしかない……。

 「おい……なんだか狼たちの方騒がしくねぇか?」
 「だよな……あの変な動物はとっくの昔に食べ終わってると思うし。」
 「何かあったとしても、普通はちゃんと俺たちを呼ぶはずだろ?」
 「ああ…おめーらちょっとあっち行って様子見てこい。」
 「え?鋼牙は行かないのか?」
 「俺はちょっと用事があるんでな、おめーらは後から俺の匂い嗅いで追いかけろ。」
 そう言うと、鋼牙はつむじ風を作りつつあっというまに走って行ってしまった。
 「………。」
 二人にはわかる。鋼牙がこう言う時は、大抵かごめたちに会いに行くのだと。
 「仕方ないな、さっさと行こう。」
 「ああ。」

 二人がそこに来ると、狼から必死で逃げているさっきの動物の姿があった。見かけによらずとてもすばしっこいようで、木に登ったりもしている。が、似たような所をぐるぐる逃げ回っていた。
 (…確かに俺たちを呼ばない意味もわかるな。)
 「ったく、こんなもんだったら簡単に捕まえられるだろっ。」
 八角は上からその動物をわしづかみにした。
 『ぶきっ!?』
 (こ、こんなところで……死んでたまるかーっ!)
  <がぶ>
 すると、その動物は思いっきり八角の手に噛みついた。
 「いででででで、何しやがるこの野郎っ!」
  <ぶんっ  ばっしゃーん>
 八角はその動物を振り飛ばし、動物は川に落ちてしまった。
 「…おい、取らねぇのか?」
 「バカじゃねえの、確かこの先すぐ滝だっただろ?」
 「あー、そういえばそうだったな……」
 「とにかくさっさと行くぞ。」
 「おう。」

 (ったく……とんでもねぇ目に遭っちまったぜ…って、わ゛――――っ!?)
  <ドドドド……>
 『ぶき〜〜〜っ!?』
 さらに良牙は迷っていくのであった……。





 ……二日後。こちらは犬夜叉一行。
 「最近、四魂のかけらのうわさとかがすっかりなくなってしまいましたね。」
 「ったく、奈落の行方もわからねぇしよー。それにこの前いきなり鋼牙の奴来たかと思えば『奈落はどこに行った?』だし、かごめに変なことはするし……」
 「変なことはないじゃないっ。」
 (ヤキモチ妬いてくれるのはうれしいんだけど……)
 「ふん。」
 (さらにあの変態の臭いまでしやがる。)
 「どうしたの?急に歩く方向変えて……」
 「…なんでもねぇっ。」
 「何でもなくて普通急に方向変える?」
 「んなことどーでもいいだろっ。」
 その時、向こうに誰かが走って行くのがかごめには見えた。少し経ってそれが乱馬たちだとわかった。
 「あ、あかねちゃーん。」
 「えっ!?……あ、かごめちゃん!」
 乱馬とあかねは少しびっくりしてからかごめたちの方へ来る。
  <ずるっ>
 「犬夜叉…コケたということは、単にあの人たちと会いたくなかっただけだと…?」
 「弥勒、てめぇ……一応図星だけどな。」
 「……素直でよろしい。」

 「ねえ、鏡見つかった?こっちはまだ。」
 「ごめんね……まだ見つかってないの。あれ、良牙くんは?」
 「ちょっと、はぐれちゃって……」
 「それ大変じゃないっ。」
 「いや、いつものことだからいいって乱馬は言ってるけど。」
 「いつものこと?」
 「いつものことなの。」

 犬夜叉と乱馬は相変わらずの口ゲンカ。
 「おい、さっさと元の国に帰りやがれよ変態っ。」
 「うるせーな、俺はおめーと違って最初っからそうゆう体質じゃねーんだよ半バケっ!」
 「な゛……」
 「……え?」
 (俺、半妖なのは言ったが生まれたときからなんて言った覚えねーぞ……こいつ、初めて『半妖』の言葉聞いた時はその意味すら知らなかったくせに、なんでわかってんだよっ。)
 (あれ、あいつそんなこと言ってないからわからねぇのに……なんでいきなりこんな言葉が出てきたんだ?)
 二人は少し考えたが、そんなことどうでもいいやといった感じにまた口ゲンカを始める。
 「と、とにかく変態は変態だ変態っ!」
 「だからそんなこと言うんじゃねえって!!」

 「……またケンカじゃ。」
 「いや、かなり仲が良くなっているんだと思いますが。」
 (もしも犬夜叉と乱馬が同じあれであるなら……あれが起こるはずだが………)

 そして、それは起きた。
  <キュイン……>
 「!?」
 今度は周りの人も気づいたようだ。
 (なんだか一瞬……周りの景色が歪んだ?)
 (い、今の何?)
 (一体何が起こったんじゃろか。)
 周囲の景色が歪んだその一瞬だけ、乱馬と犬夜叉は何もしゃべらなかった。
 しかし、すぐまた口ゲンカを始める。
 「……わっ、ちょっと、どうなってんだよこれっ!」
 「それはこっちのセリフだこっちの!」
 だが、さっきとは何かが違う。
 (やはり、あの二人は……)

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このシリーズの中で一番短い話。というより、ただの時間稼ぎかも……。
良牙と鋼牙、一体どっちの視点の話になっているかさっぱりわからないですね(汗

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