す〜ぱ〜るーみっく  〜売られていた四魂のかけら〜




 (犬夜叉ったら、本当にワガママなんだから。)
 かごめはそう思いながら、通学路を下校していた。
 夕日が沈みそうでなかなか沈まない空を見ながら、今日の学校の出来事を思い返していた。毎週ある、英語の小単語テストですらまともにできていなかったこと。北条くんが来ても既に他の人がいるだなんて言えなかったこと。友人と犬夜叉の性格やこれからの進路について話したこと。
 (こっちは受験だってあるのに……なんだかんだでまだ学校決まらないし。)
 その時、ふとかごめの足が止まった。
 (――四魂のかけらの気配!?)
 かごめはその方向へ走り始めた。いつもはほとんど歩く機会のない、人通りの少ない路地。かけらの気配は、角にある小さな骨董品店からだった。
 「……ご……ごめんくださーい……」
 おそるおそる、その中へ足を踏み入れる。古い壺やら掛け軸やら、骨董品店ならではの物がいろいろ置いてある。そして、小さな机の上に他の石ころみたいな物と混ざってかけらはあった。どう見ても、本物である。
 (………え゛?)
 しかし、かごめの目はかけらを巻いたひもにつけてある値札の方に行った。

 10万円。

 (じゅっ……じゅうまん……えん……)
 思わず嘘だと言いたくなったが、すんでのところで抑えた。ただどうしようもできずに眺めているだけ。
 「お?お客さん、ここへ来るのは初めてかい?」
 そこへ、いかにも貫禄のありそうな、店の人と思われる人が来た。
 「それはちょっと前にわしが拾ってねぇ。誰に聞いても何の種類なのかわからないし、でも見たことのない色じゃし、珍しそうだからそのくらいの価値はすると思っておるんじゃよ。きれいだってのはわしもわかるんじゃが、残念ながらそれ以上は下げられないねぇ。」
 「そ……そうですか……」
 仕方なく、かごめは店を出た。

 とぼとぼとした足取りで、かごめは家へ帰る。
 「あら、どうしたの?そんな顔して。」
 「あ、お母さん……私、バイト始めていい?」
 「バイトって……それでどうするつもり?」
 「ちょっと、欲しい物があって。」
 「欲しい物?」
 「かごめ、心配は無用じゃぞ。」
 割り込んできたのはおじいちゃん。
 「え?」
 「わしは見とったぞ。おぬしが骨董屋から浮かない顔して出てきたのを。」
 「本当!?じゃあ話は早……」
 「あんなとこへ行かなくても、うちにも古くて由来のある物はたっぷりあるわい。例えば、今わしが持っておるこの皿の由来はー……」
 「…………」
 (ダメだ、こりゃ……)


 その夜。骨董品店へ、一人の女の子が入ってきた。小学生くらいの大きさである。
 「ん……どうしたかね、おじょーちゃん?もうそろそろ店閉まるよ。」
 女の子はしばらく店のなかを駆け回っていたが、薄桃色の小さな宝石を見つけるなり、ピタリと止まってじーっと見ていた。
 「すいませーん、これ下さい。」
 「おじょーちゃん、隣の値札を見なさいな。とてもおじょーちゃんみたいな子供が出せる値段じゃないよ。」
 店の人がそう言ったとき、女の子は宝石の上に何かをかざした。女の子の姿がみるみる変わる。
 「……誰が子供ですって?」


 ――翌朝。
 「行ってきまーす。」
 普通にかごめは家を出た。いい感じに晴れている。
 (今日の下校中にあの店に行って、なんとかかけらをもらう。それしかない!)
 そう思いながら歩いていたが、その足は昨日の下校中と同じところで止まった。
 (気配が無くなってる――!?)
 既に誰かが買ってしまったのか、それともまさか妖怪に……そんなことが頭の中をよぎる。急いで店の前へ来たが、朝早くのために扉は閉まっていた。
 「すみません……すみません!!」
 かごめは強く戸を叩く。扉は開かず、中から眠たげな店の人の声がした。
 「どうしたんだい、まだ開店時間じゃないよ。」
 「あの、薄桃色の宝石ってありますか!?」
 「ああ、あれねぇ。残念だが、昨日の夜に売れたよ。とても美しい女の人が買ってったねぇ。」
 「え……」
 しばらくかごめはその場に突っ立っていたが、
 「わかりました……ありがとうございます。」
 仕方なく元の道を戻っていった。
 (ど、どうしよう……)
 まさか、買う人がいるとは思わなかったのだ。近所ならばまだ可能性はあるが、今の時点ではどうしようもない。
 (とりあえず、学校に行かなくちゃ……)


 「おはよー、かごめ。」
 「あ、おはよー……」
 教室へ行くと、いつもの友達が笑顔で迎えてくれた。
 「どうしたの、かごめ。あまり元気なさそうじゃない。」
 「い、いや、そんなことないって。」
 「まーたそう言って。彼氏となんかあったんでしょ?」
 「だから、今回は本当に違―――」
 そう言いかけたところで、かごめは級に窓へ顔を向けた。
 (かすかにだけど、かけらの気配……よかった、まだわかる!!)
 「何?何か窓にいるの?」
 「あ、えーと、何でもない、何でもないから!!」
 (どうか、学校終わるまで動かないで―――……!)


 一方、こちらは風林館高校。
 「あかね、一時間目って何の授業だ?」
 「ひなちゃん先生よ。あんたねー、それくらい覚えときなさいよ。」
 「そーか、それなら早弁できるな。」
 「って、あんたねー……」
  <ガラッ>
 「さー、今日も授業を始めるわよ!」
 そんな中、ひな子先生が来た。
 「ん……?」
 (最初から大人……!?)
 普段から大人というのは、前にもあった。その時は闘魚から闘気を得ていたのだが、今回はその水槽もない。普段と違う点と言えば、胸に小瓶の形をしたブローチがあることくらい。薄桃色に見えるが、乱馬の席からは中に何が入っているのかはよく見えなかった。
 (ま、あの時もなんだかんだで結局中身は子供だったから、バレたらウインナーでもあげてやっか。)
 そう思いつつ、乱馬は鞄の中から弁当箱を出した。

 早弁がバレたのは、弁当を食べ始めてから間もなくのこと。
 「あら、早弁なんて悪い子ね。」
 つかつかと歩み寄るひな子先生に対して、乱馬はこれだけのために残しておいたタコウインナーを一つ投げる。
 しかし。
 「あら、先生のために投げてくれたの?意外ね。」
 ひな子先生はウインナーを手で取りはしたものの、全く気にせずに乱馬の方へ。
 「え?」
 乱馬はどこからかカスタネットを出して叩いてみるが、やっぱり効果無し。
 「早乙女くん、あなたはね……」
  <ドォォォン>
 「今度こそ先生には勝てないのよ!!」
 そして、いとも簡単につり銭返しえぶっ飛ばされたのだった。

 この日のひな子先生はとても先生らしかった。子供っぽい仕草が全くなく、テキパキと授業をこなしていったのである。



 放課後。
 「かごめー、今日は彼との話は……」
 「ごめん、また今度!」
 幸い、かけらの気配は朝からほとんど動かなかった。
 かごめは校門を出て。急いで気配のする方へ走る。
 (少しずつだけど、動いてる……早く行かなきゃ。)

 そして、かごめは見た。
 (……美人……)
 長髪で背が高く、プロポーションのバッチリな大人の女性。その旨には小瓶の形をしたブローチがあり、中にあのうす桃色の宝石が見える。
 紛れもなく、四魂のかけらである。
 (あの人……絶対にかけらのこと知らないんだわ……)
 しかし、かける言葉も見つからず、かごめはただその女性を見送るばかり。
 と、急に聞き覚えのある声がした。
 「あれ?……あれ、かごめちゃんじゃない?」
 「本当だ。何やってんだー?」
 「あ……あかねちゃんに乱馬くん!?どうしてここに?」
 「それはこっちのセリフだ。」
 「私たちは普通に下校してただけよ。」
 「え、えと、今日何か変なことなかった?それか、さっきの女の人について知ってることとか……」
 「は?」
 「……話が長くなりそうね。そこの甘味亭にでも寄っていきましょ。


 「……とういことは……」
 甘味亭内にて、乱馬はパフェの最後の一口をスプーンですくいながら言った。
 「ひなちゃん先生が四魂のかけらを持っているんだな?」
 「うん。でもよかった、あの人が乱馬くん達の知り合いで。本当にどうしようかと思ってた。これなら、楽にかけらを手に入れられそうね。」
 「いや……結構難しいわね。先生、なかなか人の言うこと聞いてくれないし。」
 「先に言うけど、今回のことには絶対あの半バケ連れてくるんじゃねーぞ。話がややこしくなるだけだ。」
 「わかったわ。あと一つ疑問なんだけど、その先生はただのアクセサリーのためだけにかけらを持っているんじゃないの?テキパキ授業をこなしてたって、いつもそんな感じに見えるんだけど……」
 「それは……まぁ、やっぱりややこしいから止める。ただ、これだけは言えるな。ひなちゃん先生は、あの半バケでも簡単には勝てねぇ。」
 「え……?」
 (あの女の人、そんなに強いの……!?)
 「とりあえず、今週末にひなちゃんのとこで勉強会をしたいって電話するわ。それでいいのね?」
 「うん。」



 「何ぃ!?二日後にまた国へ帰らせろだと!?」
 所変わって戦国時代。
 「だから、今回はかけらを手に入れるってちゃんとした目的があるのよ!戦うんじゃなくて話し合いするだけだし、あんたが行ってもうるさくなるだけなの!!」
 「俺がおまえの国へ行くのがそんなに悪いのか!?」
 「ぶっちゃけいいより悪い方が多いわよ!!」
 二人の口論はなかなか終わらない。
 「犬夜叉。前回はお前がいたばかりに乱馬たちに迷惑かけたのだろう?少しはかごめ様を信じなさい。」
 「やかましい!」
 「そう『うるさい』とか『やかましい』とか言えなくなるときって、もう口論に負けてるって言ってるようなもんだよ?」
 「とにかく、かごめがかけら取りに行くっつーんだったら俺も行く!!」
 「仕方ありませんね……かごめ様、これを。」
 そう言って弥勒が差し出したのは、数枚の札だった。
 「これって……破魔の札?」
 「ええ、もっとも、これは弱い方の物ですが……こう使います。」
 弥勒は不意に犬夜叉の額に札を貼る。すると、犬夜叉は岩になったかのように一歩も動けなくなってしまった。
 「おすわりとか叫ぶよりも、これの方が静かでいいでしょう。」
 「お、おい、何しやがる、とっととはがせ!!」
 「おや、普通は口もきけないはずなのですが……半妖だからですかね?」
 「うるさいことに変わりはないのう。」
 「……まぁわかったわ。犬夜叉、変なことしたらすぐにこの札貼るからね。」
 そう言ってかごめは札をはがした。
 「……けっ。」

執筆最終更新日:2007年5月10日
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一年も待たせた上にあまり話が進まなくてすいません。
次はかなりハチャメチャな展開になる予定。ただ……いつになるのかなー;(ぁ

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