す〜ぱ〜るーみっく  〜笑え!五寸釘?〜




 「え……えと……」
 通学路の真ん中に、五寸釘がいた。
 いや、いるのは五寸釘だけではない。
 「おいおい、早く金出せよ。」
 「でないと、この番長にひどい目に遭うぞ。」
 何人かの不良が、五寸釘を取り囲んでいるのである。その中の一人は、人間なのかと疑うような図体。
 「俺たち仏滅高校がやばいって事、おまえだってわかるだろ?」
 「番長はこう見えても人間なんだぞ。」
 その番長と思われる人は、獅子舞のように口をがちがち鳴らしていた。
 「えと……金目の物ですね……?」
 「そうだ。早く出せ。」
 「では、これで……」
 そう言って五寸釘が出したのは……釘。
 「……なんだそれは。」
 「ですから、金目の物です。」
 「ほぉ。お前、俺たちをなめてんだな?」
 不良達は一気に五寸釘に殴りかかる。
 「え……」

  <ばきっ>
 
 しかし、今のは五寸釘が殴られた音ではない。
 不良の方が、一人倒れていた。

  <どが どご どげんっ>

 「よー五寸釘。元気?」
 最後に番長らしき人を空高く蹴っ飛ばし、少しも疲れていない顔をした乱馬が目の前にいた。
 こんなのは朝飯前と言った感じである。
 「さ、早乙女くん……危ないところをありがとう。」
 「乱馬、何してたのよ?」
 その後ろから来た、五寸釘の好きな人……あかね。
 「人助けだよ、人助け。五寸釘、お前も早く行かねぇと遅刻するぞっ。」
 そして二人は、何事もなかったかのようにすたすたと歩いていった。


 「……………。」
 後をとぼとぼと歩き始めた五寸釘。
 (ぼくも……早乙女くらい、いやそれ以上に強ければなぁ……)
 昔、ファイト一発を使ったことがあるが、結局勝てず。
 その後、なんかうさんくさい通信販売に加入してみたが、筋肉増強剤はさすがに高くて買えなかった。その上、植物兵器らしい物を注文してみた時は説明書が訳のわからない言葉で書かれており、とりあえず庭に植えてみたが、小さなヒマワリが咲いただけ。今は解約している。
 そして、ひょんなことがきっかけで関わった、スーパーデリシャス遊星ゴールデンスペシャルリザーブゴージャスアフターケアーキッド28号インハイスクールヴァージョン。もらったスーツはインチキだった上に、最後はやっぱり乱馬に助けられたのだった。
 (どうすれば……強くなれるのかな……)
 『おまえ、弱いんだな!?』
 「はい、弱いです。……え?」
 突然、空から聞こえた声に思わず答える五寸釘。後で周りを見回してみても、誰もいない。
 『よいしょ!!』
  <ぴと>
 首の後ろに冷たい感触を受け、五寸釘は振り向く。そこには妖精のような、小さい生き物がいた。
 『わーい、オレのオモチャだオモチャだ!!』
 まるでファンタジー世界の中に出てきそうな、スズメと同じくらいの大きさの女の子。人間と違うのは触角らしい物があることと、背中に4枚の羽が生えていること。かなり露出度の高い姿をしている。
 「あ、あの、君は一体……」
 『オレ、宇宙人だよ!』
 「………………。」
 いきなりのことに、五寸釘は何がなんだかさっぱりわからなかった。わかっていることと言えば、自分のそばに得体の知れない物がいると言うこと。
 「ぅわ――――っ!!」
 五寸釘は全速力で転げるように走っていった。
 『ておい、待てよ!』
 「キリスト様シャカ様アラー様シヴァ様サタン様元始天尊様八百万の神様……南無阿弥陀仏エロイムエッサイムアーメン……!!」
 自分でも訳のわからない言葉を口走りながら走っていく。
  <どん>
 前をよく見ていなかったためか、誰かとぶつかってしまった。
 「……いきなりぶつかって来おって、何の用だ?」
 頭を上げてみると、そこにいたのは九能先輩。
 「え、いや、その……」
 「何も用がないのにぶつかったというのか?」
 思わず五寸釘は後退りする。
 「い、いや、さっき変な生物と遭遇しまして、逃げてきたんです……」
 「変な生物?」
 『コラ、オレは変な生物じゃないぞ!』
 五寸釘の後ろで、女の子は息をゼーハーさせながら言った。
 「ほ、ほらいますよぉぉ!」
 「む?」
 九能は五寸釘の後ろを見てみるが、誰もいない。女の子は五寸釘の首にしがみついているのだ。
 「貴様……この九能帯刀を馬鹿にしているのか?」
 「そ、そういうわけでは……!」
 九能に睨まれ、更に後退りする五寸釘。
 『ちょっと待ってろ、今ネジ回すから!』
 耳元では相変わらず女の子の声が聞こえている。
 『さっき、お前にエネルギー変換器を取り付けたんだ!これはマイナスパワーをプラスに変える。おまえすごく弱いから強くなれるぞ!!』
 何をしているのか、キリキリという音まで聞こえてきた。
 「早乙女乱馬はともかく、貴様までこの九能帯刀を愚弄するとは……」
 九能は木刀を構えながらじりじりと寄ってくる。
 「い、いえ、ですから決して……!」
 五寸釘がそう言いかけた時、何やら体中がガクガク動き始めた。



 それから五寸釘は、何をやったのか全く覚えていない。気がつけば九能の姿はどこにも見えず、いつどこでぶつけたのか腕がズキズキと痛み、なぜか近くの塀が崩れていた。
 『いけね、ネジが戻った!』
 「あの……僕は今まで何をしていたんですか。」
 『あの木刀の男をぶっ飛ばしたんだよ。オレの予想通りにお前、すごく強くなってた!』
 「え……?」
 一瞬、五寸釘は女の子の言葉が信じられなかった。
 (このボクが……九能先輩をぶっ飛ばした……?)
 しかし、すぐに考えは別の方向へ行き。
 (これが本当なら……早乙女も倒せる!?)
 『さてと、もう一回ネジを……』
 「勝てる、勝てるぞ―――っ!!」
 『わっ!?』
 五寸釘はルンルン気分で高校へ走っていった……。
 『待てよーっ!!』




 「えー、酸化とは物質が酸素と化合する反応である。この時、物質は酸化されたというんだ。逆に、物質が酸素を失う反応を還元といい、その物質は還元されたと言う。で、この式ではー……」
 その頃、学校では既に授業が始まっていた。教科書を読みながら、まだ五寸釘が来ていないことを気にする乱馬とあかね。
 「五寸釘君、どうしちゃったんだろう。」
 「ったくあいつ、また不良に絡まれてんじゃねぇだろうな。」
 その時。
  <ひゅるるる……>
 何やら外から音がする。窓を見ると、何かがこちらに向かって飛んでくる。
 「わわっ!?」
 「なんだありゃ!?」
 窓側に座っていた生徒達が避難すると同時に
  <どがらがっしゃーん ごすっ>
それは窓ガラスを突き破って教室に飛び込んできた。よく見ると、それは……
 「九能先輩!?」



 「ふふふ、早乙女待ってろよー……!」
 にやにや笑いながら高校へ向かう五寸釘。後もうすぐである。
 「この木のように……!」
 そう言いながら近くにあった木を思いっきり殴った。
 が、木はびくともせず、逆に腕に激痛が……。
 「……………。」



 「はぁ?五寸釘にやられたぁ!?」
 休み時間の保健室にて。
 「まさか夢でも見てねーよな?」
 「夢ではない。この殴られた跡が何よりの証拠ではないか。」
 九能が言うには、五寸釘の体がエンジンのようにガクガク動き始めたかと思うと、いきなり吹っ飛ばされたらしい。
 「九能先輩、何か五寸釘君に恨まれるようなことでもしたじゃないんですか?」
 「そんなことは断じてないっ!」
 

 そして二人が教室に戻ると、
 「や、やあ。」
 やっと五寸釘がいた。
 「五寸釘君、遅かったじゃない。何かあったの?」
 「ま、まぁ、いろいろありまして……あ、早乙女くん。」
 「なんだ?」
 「とりあえず、これを受け取ってちょうだい。」
 「は?」
 そう言われて、乱馬が見た物は果たし状。
 「今日の放課後、よろしくね。」
 「おい、おまえなぁ……」
 「大丈夫、あの時のようにはいかないから。」
 「………………。」
 (なんか、やな予感がするぜ……)



 午後の授業中。
 『はぁ……はぁ……』
 女の子が息を切らしながら五寸釘のところへ飛んできた。
 「……君はさっきの……」
 『もう、どこへ行ったのかと思ったよ。これからまたネジを巻くから……』
 「え、今はまだ授業中だし……」
 『なんでだよ、つまらないなぁ。』
 木を殴ったとき、五寸釘は少しだけわかった。自分はネジが動いている間しか強くないらしい。しかし、その間意識は全くない。あくまで五寸釘が倒したいのは乱馬だけ。クラスメイトまで巻き込みたくはないのだ。
 『退屈だからやっぱり巻かせろよ!』
 「ちょ、ちょっと……」
 首のネジをつかもうとする女の子と、器用なまでに必死で避ける五寸釘。
 「……おまえ、さっきから何やってんだ?」
 「さ、早乙女君、なんでもないから……普通に勉強してて。」
 あわてて五寸釘は女の子をポケットに押し込んだのだった。





 そして、放課後。
 「おまえなぁ、今度は一体何のマネだ?」
 「いや、ねぇ……」
 グラウンドの真ん中で立つ二人。周りにもどんどん野次馬が。
 『なるほど、おまえはあの男を倒せばいいんだな!?』
 五寸釘の後ろで女の子はキリキリとネジを巻いている。

 「なんか乱馬と五寸釘が決闘だってよ。」
 「またあの鎧か?ってあいつ、生身!?」
 「おいおい、今回完全に五寸釘の奴血迷ってんじゃね……?」
 「……………。」
 (五寸釘君が九能先輩を倒したって、本当なのかしら……)
 あかねも心配そうに見つめる。

 「ちと聞くが、おまえどーやって九能先輩をぶっ飛ばしたんだ?何か使ったのか?」
 しかし、五寸釘は何も答えない。
  <ガクガクガクガク……>
 そのかわりに動き始めた。エンジンが始動した時のように震えている。
 「ぎゃははははは!!」
 そしていきなり人が変わったように笑い叫んだ。
 「こーやってぶっ飛ばしたんだよ!!」
 「―――!?」
  <ビュッ>
 五寸釘の一撃をかろうじて乱馬はかわす。
 (なんだ……今までとまるで動きが違う!?)
 さすがに乱馬も驚いたのか、しばらく避ける一方に。誰が応援しているのか、『いけいけーっ!』という声が小さく聞こえる。

 「な……五寸釘が勝ってる!?」
 「つーか、性格まで変わってないか?」

 「く……この野郎!」
  <ビッ>
 ついに乱馬も攻撃に。が、その拳はあっさりとかわされ、本当に五寸釘なのかという速さで殴りかかってくる。
 (!…しまっ……)
 その腕はだんだんと遅くなり、乱馬のすぐ目の前で『ぷつん』とかいう音と共に動かなくなってしまった。
 (…………?)
 『いけね、また戻った!』
 「あれ、まだ倒れてないんだ……早乙女君、ちょっと待って。今……」
 「待つわけねーだろ。それより、今後ろから声がしたような……」
  <ぎく>
 「だ、誰もいないって。」
 とりあえずそう言う五寸釘だが、表情と動作で嘘はバレバレ。
 後ろからキリキリとかいう音まで聞こえている。
 「ほー。だったら本当に後ろに行……」
 そのとき、再び五寸釘がガクガク動き出した。
 「いないって言ってんだろーが!!」
 それから急に蹴りかかる。その動きは、やはり五寸釘とは思えない。

 「おい……こりゃひょっとするとひょっとするかもしれねぇぞ。」
 「まずいんじゃね?」
 「……………。」
 (乱馬……)

 しかし、乱馬もただ避けているだけではない。一瞬ではあったが、五寸釘の首の後ろに何かがいるのが見えたのだ。今もその辺りから『いけー、やっつけろー!!』という声が聞こえる。
 それに、最初こそ意外だったので焦ったが、五寸釘の動きはあまりにも直線的過ぎる。どこから攻撃が来るのか予想がつきやすい。
 「あちょー!」
 今時どこの格闘家が言ってるんだ、と言いたくなる叫び声をあげながら乱馬へ飛び蹴りをかます五寸釘。
 「……。」
 乱馬はそれをさっと避け、即座に五寸釘の後ろへ回り込み、腕を首の方へかすませる。
 『!?』
 確かに手ごたえはあった。手の中で何かが暴れている。まだ五寸釘は止まらない。
 (違う……!?)
 が、まもなく五寸釘の動きは遅くなり……再び止まった。
 「え……まだ……」
 「よー五寸釘。一つ聞きたいことがあるんだが……」
 「はぃ?」
 「こいつは誰だ?」
 乱馬が五寸釘の前に出したのは、なにやらかわいい妖精のような女の子。
 『ちょ、こら、離せよーっ!』
 「え、えと……僕もよくわかんないんだけど……オバケみたいな……」
 『オレはオバケじゃない、宇宙人だ!早く離せっ!!』
 「……オバケだか宇宙人だか知らねぇが、おまえは五寸釘に何やってたんだ?」
 『い……!?』
 乱馬に睨まれ、女の子はますます焦る。

 「おい、あの二人何話してるかわかるか?」
 「いや、遠くて何もわからんが……なにかいるみたいだぞ。」

 『あ……あいつの首の後ろんとこさぁ、ネジがあるんだ。そいつを回してみれば……!』
 なんとかしようとする女の子だが、はっきり言って自分で墓穴を掘っている。
 乱馬が五寸釘の後ろに行くと、確かにネジがあった。
 「ほー。」
 (あのキリキリという音はこれだったのか……)
 「よーするに、おまえがこれで五寸釘を操っていたんだな?」
 『あ゛………』
 乱馬は五寸釘からネジを取る。スポンという音と共に、意外とあっさり抜けた。
 「……ところで、おまえいい子か?」
 『あ、う、うん、とてもいい子だよ!?』
 「だったら……」
  <ギュン>
 「二度とこういうことをしねぇよ――に!!」
 乱馬はネジを思いっきりどこかへ投げ飛ばした。
 『あ、ちょっ、オレのネジ―――……!!』
 そして、女の子もあわてて後を追って去っていった……。





 「五寸釘君、宇宙人に操られてたの!?」
 「みたいだな。おい五寸釘、おまえ何でも信じ込むの止めた方がいいぞ。」
 「……しくしくしくしく……」

大体ここまでの執筆更新日:2006年4月22日
次へ進む   前へ戻る
えー、わかる人は少ないと思いますが、らんまと短編「笑え!ヘルプマン」を混ぜてみました。ゲストでうる星の仏滅高校付き。
今回更新が遅れたのは、言うまでもなくバトルに手間取ったから。自分で書いておきながら、暴れている五寸釘がまったく想像できません。おまけに原作では実際は首じゃなくて耳の上に女の子はいるのですが……すぐバレるだろということでこういうことに。
これも随分最初の頃から考えていた話で、中学のときにお絵かき提示版でこんな絵まで描いてたりします(実際はもう少し女の子は小さい(爆何

るーみっくへ
トップページへ