す〜ぱ〜るーみっく  〜本気で対戦!?乱馬VS犬夜叉(後)〜





 「「!?」」
 その出来事に驚いていたのは、乱馬と犬夜叉両方だった。
 乱馬は腕にかなりの激痛はしたものの、斬られた感覚ではない。犬夜叉も何かに受け止められた感じがした。
 ……なぜか、鉄砕牙が変化していない状態、ただのサビ刀になって乱馬の腕にぶつかっていたのである。
 「……どういうわけだよ!?」
 犬夜叉は一旦乱馬から離れると、しばらく横で素振りをした。が、鉄砕牙は全く変わらない。もちろん、なぜそのような事になったのかは二人ともわからなかった。
 「……どうやら、俺は運が良いってことらしいな。」
 よろっと乱馬は立ち上がる。鉄砕牙の当たった右腕が赤く痛むが、今はそんなことを気にしている暇はない。
 「けっ。」
 仕方なく犬夜叉は刀を鞘にしまうと、
 「人間なんざ爪だけで充分だ!」
 「はっ!」
 再び乱馬へ襲いかかった、乱馬はさっと避け、再び最初の時と同じ追いかけっこが始まった……。
 
 
 『……ぱほ?』
 かごめ、あかね、神主、そして何人かの野次馬が群がっている中、ず―――っと気を失っていたパンダがやっと目を覚ました。
 「あ、気がついた。」
 「ってあかねちゃん、そのパンダ知ってるの?」
 「ま、まぁね……。」
 パンダはのその後あかねとかごめの前にくると、
 『その人はどなた?』
 と書かれた看板を見せた。
 「あ、この子はかごめちゃんと言って、私の友達なの。」
 「そうそう……ってこのパンダ、人の言葉がわかるの!?すごい!!私もペットに欲しいかも。」
 どうやらかごめは本気で普通のパンダだと思いこんでいるみたいである。確かに、この姿で人間だとはとても思えないが。
 そしてパンダは、新たな看板をあかねに見せる。それには、
 『ところで、鬼はどこへ?』
 と書かれてあった。
 「そのことなんだけど……」
 そう言って、あかねはかなりの木々が倒れている山の方へ目を向ける。そこからは、時折ガサガサという不審な音が聞こえていた……。
 
 
 (ちくしょう……どうすればいいんだ!?)
 森の中を走りながら乱馬はそう思っていた。戦国での手合わせでお互い手加減しながらでも、犬夜叉がとても強いことはわかっていた。しかし……その手加減の差が違っていたことに気づいたのは、ついさっき。
 今の犬夜叉は、妖怪と戦う時と同様に乱馬を襲っている。力もスピードも及ばない。残るは、考えのみ。
 邪悪の鬼を追い出すには、ぶん殴るか額に豆の札を貼るか。しかし、殴れる間合いに近づくには危険すぎるし、豆の札も所詮は紙のため、額に届く前に引き裂かれる。
 (……紙?………そうか!!)
 乱馬は今まで通り、犬夜叉から逃げていった。今の状態の犬夜叉なら、それだけでいいのだから。
 
 
 ……数分後。
 (ったく……逃げ足だけは速い野郎だな。)
 かなりじれてきている犬夜叉。それもそのはず、あれから乱馬は全く攻撃を仕掛けてこない。してくれば、その隙を突いて自慢の爪で切り裂くことも出来るのだが。しかし、目的の四魂のかけらを乱馬が持っている以上、追わないわけにもいかない。おまけに、さっきから同じ場所を何度も回っているような気がして、何を考えているのか全くわからない。
 そのイライラが頂点に達するまで、さほど時間はかからなかった。
 「いい加減に……往生しやがれ!!」
 地面をくるぶしまでめり込むほど強く蹴って、上から飛びかかる犬夜叉。それを待っていたかのように乱馬は振り向く。
 「飛竜昇天破!!」
 
  <ドォォォン>
 
 
 「!?」
 今度かごめとあかねたちのいる所から見えたのは、とても大きい竜巻。
 「あ、あかねちゃん……あれはなんなの?」
 それには、あかねが答えるよりも先に
 『あ、あれはまさしく飛竜昇天破!!』
 と書かれた看板をパンダが上げていた。
 「飛竜……昇天破……?」
 「乱馬の必殺技よ。」
 その竜巻の中に、かすかに赤い点が一つ見える。
 (犬夜叉……!)
 
 
 「けっ……何かと思えばただの竜巻かよ!」
 飛ばされながらも強気な犬夜叉。
 「こんなもんとっとと抜け出して……」
 「そうだろうと思ったぜ。」
 犬夜叉の声を阻むように、下で乱馬の声が聞こえた。
 「これで……」
 乱馬はポケットに手を突っ込むと、
 「どうだ―――――っ!!」
  <バッ>
 大量の豆の札をばらまいた。
 「!!」
 おびただしい数の札は竜巻の風に乗り、竜巻の中を飛び続ける。もちろん、犬夜叉の周りにも。
 
 
 「なんか……さっきよりも竜巻の中が曇ったような感じがしない?」
 「そう言われてみれば、そうかも……」
 その時、竜巻から飛び出したのか、一枚の紙が二人の所へひらひらと落ちてきた。
 「……豆の札!?」
 
 
 「竜巻なんかでてめぇを倒せねぇのは先刻承知!動きを封じることが目的だったんでいっ!!」
 「くっ……!」
 確かに今の状況は乱馬が有利だった。どこから豆の札が来るか全くわからない。
 「散魂……鉄爪っ!!」
 とりあえず、自分の近くにあった札を引き裂いては見たものの、札の数はかなりある。
 「てめぇを引き裂けばすむ話だろーが!!」
 そう言って犬夜叉は札を裂きつつ、乱馬のところへダッシュした……が、当然ながら、足をジタバタさせているだけで、全く進まない。
 「……このっ……!」
 もがく犬夜叉をよそに、下から犬夜叉の様子を見る乱馬。
 (どうやら札が額の所には行きそうにねぇな……)
 万一、全ての札が裂かれてしまったら、本当にどうしようもない。
 (こりゃ一か八か殴るしかねぇか。)
 そう思って乱馬は足を地面から離し、体を風に任せて犬夜叉の所へ向かう。その途中で飛んでいた豆の札を一枚つかんで。
 「よっ。こっちから来てやったぜ。」
 犬夜叉の前で、乱馬は少し笑ってあいさつをする。それも、犬夜叉の腕がそのままでは届きそうで届かない、微妙な間合い。
 「……てめぇからくるとはいい度胸してんじゃねーか!!」
 犬夜叉が乱馬へ爪をふりかざそうとしたとき、
 「ていっ。」
 乱馬が豆の札を一枚、犬夜叉の方へ飛ばす。
 「けっ、こんなもん……!」
 犬夜叉はすぐに爪で札を切り裂いたが、
 
 
  <バキ>
 
 
 ……それは犬夜叉の注意をそらすおとりだった。犬夜叉が札を切り裂く時に乱馬は急接近し……見事に顔面をぶん殴っていたのであった。
  <ぽんっ>
 その犬夜叉から、邪悪の鬼が飛び出す。が、次の瞬間
  <しぽ――――ん>
 とても軽いためか竜巻に巻き込まれ、あっという間に空の彼方へ飛んでいってしまった。
 「げ!?」
 
 
 
 「…………ん?」
 こちらはあかねとかごめ。
 「ねぇ、何かこっちに来ない?」
 「……そうみたいね。」
 何やら小さくて丸い物が飛んでくる。そして、二人の前にふらふらと降りてきたのは……
 「へ……?」
 邪悪の鬼。しかし、目がぐるぐる回っていて、気絶しているようである。
 「……今のうちに封印しときましょ。」
 あかねはそう言うと、升の中に鬼を入れ、上からさっき飛んできた鬼の札を貼った。
 「やっと終わったわね。」
 「……ということは……」
 かごめがそう言って森の方を向いた時、
 「あかね……かごめ!」
 丁度乱馬が走ってきた。
 「あいつ……鬼はどこへ行った!?」
 「もう封印したわよ。丁度ここに目を回して落ちてきたから。」
 「そうか……ったく、今回ばかりは本気でおそろしい相手だったぜ。」
 「今度こそ、これであと千年は大丈夫です。」
 「本当かぁ?」
 「ほ、本当ですって!ありがとうございます……」
 そう言って神主は升を持って去っていった。
 「もう絶対復活させるんじゃねえぞ〜!」
 「あの、犬夜叉はどこに……」
 「ああ、まだ気ぃ失って竜巻の中にいるぜ。あいつのことだから大丈夫だろ。それから、これ返しておくぜ。」
 乱馬はポケットから四魂のかけらを出すと、かごめに渡した。
 「うん……。」
 (犬夜叉が来たら、絶対礼言わせなきゃ。)
 「あれ……乱馬、そこの腕の所青くなってるけど大丈……」
 あかねはそう言いつつ、腕をぽんと叩く。すると乱馬はびきっと反応して、その場にうずくまってしまった。
 「……夫じゃないみたいね。」
 「触るなっ……。」
 「ってちょっと、犬夜叉にやられたの!?」
 「まぁ、ちっと鉄砕牙で叩かれてな…」
 「え……斬られたんじゃなくて?」
 「ああ。ちょっと危ねぇ時があってな……でもなぜかあの刀、途中でただのボロ刀になっちまったんだ。運がいいってことかな。」
 「それ……鉄砕牙のおかげだわ。」
 「え?」
 「犬夜叉の持ってる鉄砕牙は、妖怪の犬夜叉のお父さんが人間のお母さんを守るために作った刀なの。だから、慈悲の心……優しい心がなければ使えない。……乱馬くんを斬ろうとした時に反応したんだわ、きっと。」
 (あの時の犬夜叉にそんな心は、全くなかったもの……)
 
 
 
 「……っ………」
 犬夜叉が目を覚ますと、そこはなぜか森がぐるぐる回っていた。
 いや、回っているのは森ではない。……自分。
 「ん゛な゛!?」
 それも周り中に乱馬の臭いがいる。そして何よりも腹立たせたことは、なぜか自分の中からあの鬼の臭いがしてくること。
 「あの変態、何しやがった!?」
 犬夜叉は既に勢いが衰えている竜巻を飛び出し、乱馬のいる方へと向かった。
 
 
 
 「ねえ、今思ったんだけど……」
 「何だ?」
 「乱馬くんのお父さんってどんな人?」
 「「え゛?」」
 かごめの質問に、乱馬とあかねは石化しそうになった。
 「犬夜叉のお父さんはものすごい大妖怪だったらしいから、その生まれ変わりの乱馬くんのお父さんもすごい人なのかなぁって思ったんだけど……」
 「……………。」
 まさか、三人の後ろで暇そうにタイヤと戯れているパンダが本人だとは言えるわけもない。
 しかし、その話を聞いていたらしく、パンダはかごめの前に来ると。
 『私が乱馬の父だよ〜ん』
 そう書かれた看板を見せた。思わずコケそうになる乱馬とあかね。
 「え、ちょっとパンダちゃん、何冗談を……」
 パンダは次に『いや、本当ですから。』と書いた看板を上げようとしたが、乱馬に壊される。
 「だろー?こいつ人の言葉わかるけど、少しペットとしちゃ図々しくてな……」
 するとパンダは額に四つ角マークを付けて、
 『貴様、この親に向かってなんということを』
 と書いた看板を見せた。
 「ほら、まだこんな感じだぜ。」
 無視して乱馬がそう言ったとたん、
  <ばこっ>
 『この親不孝者が!』
 と書かれた看板でパンダに殴られた。乱馬も負けずに
  <どか>
 「てめぇ、今の姿で親父だなんて言えるか!」
 と言って蹴り返す。
  <どごっ>
 『どんな姿であろうと父は父なのだ!』
  <どがっ>
 「どこにパンダの親父がいるってんだ!?」
 
 ぽかーんと一人と一匹(二人?)の様子を見るかごめとあかね。
 「あかねちゃん……もしかしてこのパンダ、本当に……?」
 「……一応、乱馬と同じ体質よ。お湯をかぶれば人間になるわ。」
 「ということは、お湯をかければかっこいい乱馬くんのお父さんが見られるのね?」
 「え?」
 「だって乱馬くんがあんなにかっこいいんだから、そのお父さんもきっと……」
 「…………。」
 (かごめちゃん……あまり期待しない方がいいわよ……。)
 
 (ん゛!?)
 まだパンダとの親子ゲンカ(?)の途中であったが、乱馬は自分へ向かってくる殺気に気づいた。
 「てめぇ!」
 それは犬夜叉だった。乱馬へ走りながら殴りかかってくる。
  <バキッ>
 とっさに乱馬はパンダの横に回り、身代わりにした。思いっきり殴られたパンダはそのまま後ろの塀にぶつかり……再び気絶。
 
 「お……お父さんを盾に……!?」
 「……いつものことよ、心配しないで。」
 
 「なんなんだよいきなり、危ねぇな。」
 「あの丸っこい鬼はどこ行きやがった!?」
 「あー……あの鬼ならもう封印したぜ。神主も神社へ帰ってったし。」
 「ちょっと犬夜叉!」
 割り込んできたのはかごめ。
 「乱馬くんに一言でいいからお礼言いなさいよ!?乱馬くん大変だったんだから!!」
 「って……そいつが何したってんだよ。」
 「あんたがさっきまでその鬼に操られていたのよ!で、乱馬くんがあんたを助けてくれたのっ。」
 「はぁ!?」
 わけがわからないながらも、とりあえず犬夜叉は今までのことを思い出してみる。
 (確かに俺があの鬼を引き裂こうとした時にあいつと入れ替わって……戻ったと思えばいつの間にか竜巻の中にいて……つーことは……)
 「この野郎!」
  <がんっ>
 犬夜叉は礼も言わず、逆に乱馬の頭を叩いた。
 「結局はあの時おまえが来なけりゃ、俺があの鬼をやっつけてそれで終わりだったんじゃねーか!」
 「ってあのなぁ、お前がそんなところにいるとは俺も思わなかったんだよ!」
 「あ、あの……二人とも、ちょっと周りを……」
 「「ん?」」
 あかねに言われて二人が周りを見回すと……鬼が封印されてからいったんは消えかけていた人だかりが、また四人(と一匹?)を囲むようにできている。人々の手にはデジカメがあったり携帯があったり。大方の人々の目線は、犬夜叉の耳。犬の耳がついている人間など、ほとんどの人は見たことがないだろう。
 「かごめ……その帽子貸せ。」
 「うん。」
 犬夜叉は帽子で耳を隠すが、やっぱり人だかりは無くならない。それどころが、逆にその姿を可愛いとか言う人まで……。
 「……かごめ、帰るぞ!!」
 「えぇ!?」
 「こんなところでじっとしていられっか!それと乱馬!てめー次にあったら本気でぶん殴る!!」
 かごめを無理矢理背中に乗せ、犬夜叉はあっというまに去ってしまった。
 「あいつ……俺よりも素直じゃねえな。」
 「え、何が?」
 「……なんでもねえ。」


 


 「犬夜叉、それは災難でしたね。」
 「やかましいっ。」
 戦後時代に帰って、犬夜叉はカップ麺をすっかり忘れていたことを後悔しつつ、三人と会った。
 「でも、乱馬くんがあんたを助けたのは事実なんでしょ?ちゃんと礼くらい言えばよかったのに。」
 「あんな変態に礼なんか言ってられっか!」
 犬夜叉はそう言ってそっぽを向いてしまった。
 「犬夜叉、どうしたんじゃ?こっち向けっ。」
 「けっ。」
 (俺は最初の時の貸しをやっと帰してもらっただけでいっ。)

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ふう……なんとか終わった。
しかし、何か間違えていないかなと思って29巻を読み返してみたら……この話、鬼が全く喋ってない。でも、特に喋らせたいところは……ないな(ぇ

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