新婚旅行で呪泉郷!? 〜乱馬が男に戻る時〜




 「行ってきまーす。」
 そう言って、乱馬とあかねは天道道場の門を出て行った。
 「こらーっ、この父の分の男溺泉も土産に頼むぞーっ。」
 「親父は一生パンダでいろっ!!」
 ……新婚旅行で呪泉郷へ。



      ==昨日==

 「あかね、とりあえず持ってく物全部入れたよな?」
 「あんたと違って私はもうできてるわよ。」
 祝言のあのドタバタの後……身辺整理が終わるのには二年かかった。そしてなんとか、良牙はあかりと、シャンプーはムースと、右京はつばさと結ばれることになったのだ。それより一年ほど早く、東風とかすみは結婚。またなびきと九能が未だ微妙な関係。小夏は相変わらずウエイトレス。完全に独身なのは小太刀と五寸釘くらいである。
 「とにかく、これでやっとまともな男に戻れるぜ。」
 「私は本当は他の所にも行きたかったんだけどなぁ……」
 「……それは俺に対するイヤミか?」
 「いや、別に。……あれ、乱馬?」
 「なんだ?」
 「なんであんたのパスポート、二つもあるのよ?」
 「いや、これは万一の時って事で……男用と女用。」
 「そ、そうなの……」
 この時、乱馬がパスポートを二つ持っている理由がもう一つあったことを、あかねは知らない……。


      ==今日==

 「ん……?」
空港行きのバス停前で乱馬とあかねが立っていると、向こうから誰かが歩いてきた。
 「や、やっと着いた……」
 紛れもなく、良牙。
 「あら良牙くん、お久しぶり。」
 「こ、こちらこそお久しぶりですっ。」
 「おい……おまえ、あかりちゃんとの新婚旅行は一週間前じゃなかったのか?」
 「だから念のために二週間前に家を出たはずなんだが……ちと迷っちまってな……」
 「ちょっとじゃねぇだろ、これは。」
 「……あかりさん、待ってるといいわね。」
 そう話しているうちに、バスが来た。


 「あ、あの、あかねさん。」
 バスの中にて。最後尾の席で良牙、乱馬、あかねの順に座っている。
 「なあに、良牙くん。」
 「いえ、その……本当は旅行から帰ってきてから渡したかったのですが……」
 そういて、良牙はあかねにある物を手渡した。
 それは、本物そっくりのPちゃんのぬいぐるみだった。
 「わぁ、かわいい。ありがとう!」
 子供のように喜ぶあかねを見て、良牙は複雑そうな顔をする。その心を、乱馬は見抜いていた。
 「良牙……本当のことは言わねぇのか?」
 「言えるわけないだろ……こんな時に……」
 良牙が呪泉郷に行き、完全な男に戻ると言うことは、もうPちゃんにはなれないということ。そして、二度とあかねの前にPちゃんは現れないと言うこと……。
 (あかりちゃんはこのままの方がいいと言っていたが、それでは俺がいつまでもあかねさんに甘えてしまう。この体質さえ治せば、少しは……大人になれ、響良牙!!)
 「良牙くん……なんでそんな辛そうな顔してるの?」
 心配そうに見るあかね。
 「あ、いや……なんでもないんです。なんでも……」


 「あ、良牙さまーっ!」
 空港に着いたとたん、あかりが良牙に抱きついた。
 「あかりちゃん……」
 「ずっと待っていたんですよ、早くお会いしたかったです!!」
 「よかったな、ちゃんと待っててくれて。」
 「本当に心広いわね、あかりちゃん……」




 そこからは飛行機で中国へ。さらにそこからバスで山奥へ数時間。久しぶりすぎるほどの呪泉郷ガイドと会い、そこからは歩いて歩いて山を登る……。
 「……もうそろそろのはずなんだが……ガイド、後どれくらいなんだ?」
 「この山越えればもう泉が見えるあるよ。お客さんがんばるよろし。」
 「はぁ、はぁ……良牙様、ここきついですね……」
 「あかりちゃん、俺が荷物もってあげましょうか?」
 「はい……お願いします!」
 「……おまえは別に持たなくていいよな?怪力だし。」
 「……どーせ私は怪力でかわいくないですよ。」
 ラブラブ度にかなり差がある(?)二組である。
 「って、そうだ。」
 あかねは何か思い出したように良牙のほうを向く。
 「良牙くん、そういえば聞きたいことがあるんだけど。」
 「なんですか?」
 「良牙くんもあかりさんも普通の人間なのに、どうして新婚旅行をここにしたの?」
 それを聞いて、あかねとガイドを除く三人はぴくっとした。
 「あかねさんは、知らないのですか?良牙様は……」
 「あ、あかりちゃん、ちょっとこれは……!」
 良牙はあわててあかりの口を抑える。
 「あー、なんかあかりちゃんは中国に行ったことがないらしいから、一緒に行かせたかったんだよな?な、良牙?」
 「……ま、まぁ、そういうことだ。」
 「そうだったんだ。良牙くんってあかりちゃん思いね。」
 そういってあかねはにこっと笑顔になると、また何もなかったように前を向いた。
 「良牙様……なぜ言ってはいけないのです?」
 「ちょっといろいろあってな……。後、乱馬……悪りぃ。」
 「いつか借りは返せよ。」
 そう言っているうちに、呪泉郷が見えてきた。




 「あいやぁ乱馬!やっと来たあるか!」
 泉のほとりまで来ると、シャンプーが走ってきた。後からムースとプラムも歩いてくる。
 最初、シャンプーはそのまま乱馬に抱きつこうとしたが、その後ろであかねが敵を見るような目つきをしていたことと、ムースにも呆れられた視線を浴びた気がしたので、その直前で立ち止まった。
 「私とムース、今里帰り中でここに来ているあるよ。」
 「そ、そうか……それよりも俺は……」
 「私、乱馬に見せたい物があるね。」
 シャンプーは片手に水の入ったバケツを持っていた。
 「わっ、たっ、見せなくていいっ!!」

  ばしゃっ

 乱馬の言葉も聞かずに、シャンプーは頭から水をかぶった。
 しかし。
 「え………?」
 目の前には、人間の姿のまま空になったバケツを持つシャンプーがいた。
 「猫にならない……!?」
 「シャンプー、あんたまさかもう……」
 「当然、娘溺泉に入って体質治したある。乱馬、あかねと結婚した。私はムースと……もう猫になる必要ないね。」
 「オラももうアヒルにはならぬぞ。」
 「そうか……よし、早速俺たちも……!」
 「ってお客さん、待つよろし。どれが男溺泉かわかているか?」
 「……教えて下さい。」
 プラムは一枚の大きな紙を取り出した。
 「男溺泉はここね。ここからだと奥に行ってそれから右に……」
 「よし、わかった!俺から先に戻るぜ!!」
 いきなり良牙が走り出した。
 「あ、てめぇ!」
 乱馬も追おうとしたとたん、

  どぼーん……

 「……は?」
 良牙はすぐ近くの泉へ飛び込んだのだった。
 「あいやー、お客さん。そこ男溺泉じゃないね。もっと奥の方ある。」
 「じゃあ、これは……?」
 「これは黒豚溺泉といって、千二百年前黒い子ブタが溺れたという呪い的泉。以来そこで溺れた者は……」
 はい上がってきた良牙の姿は、いつもの黒い子ブタだった。
 「皆、ああいう姿になてしまうのだよ。」
 それもPちゃんそっくりの。いや、良牙がPちゃんなのだから当たり前なのだが……。
 「りょ……良牙くん……」
 (あーあ、こいつ最後の最後で正体バラしちまった。俺は知ーらねっと……)
 だが、反応は意外な物だった。
 「……男溺泉はあっちよ。」
 「良牙様、ファイトですわ。」
 「え……あかね、おまえ、P……」
 「何言ってるのよ、あれはPちゃんじゃなくて良牙くんよ。いくらなんでもPちゃんが中国まで来るわけないじゃない。でも、黒豚溺泉ってPちゃんそっくりになるのね……驚いたわ。」
 「そ、そうか……」
 乱馬は苦笑するしかなかった。

 (こっちもこっちで、最後まで気づかなかったか……。)


 「この距離なら、もう迷わないあるな?」
 男溺泉のすぐ前まで来た乱馬とPちゃん。
 「ほれ、お前から先入れよ。」
 乱馬はいきなりPちゃんを男溺泉へ投げ入れる。

  バシャーン……

 「……てめぇ何しやがる!!」
 良牙は男溺泉から出てくるなり乱馬を殴ろうとしたが、避けられた。
 「よかったじゃねーか、普通の男に戻れて。」
 「おまえは戻りたくねぇのか?」
 「いや、戻りたいんだがな……」
 乱馬は何かぶつぶつ言い始める。
 「女の姿のほうがパフェも食べやすいし、買い物のときはおじさんとかにおまけがもらえるし、良牙を騙せるし、いろいろ便利なことができると思うと……」
 「ねぇ。」
 あかねが乱馬の肩をポンと叩く。
 「おゎ、あかね、いつの間に!?」
 「そんなヘンテコな悩みなんか捨ててとっとと入らんか――いっ!!」
 「どわーっ!?」

  ドバーン……

 乱馬はあかねに蹴り落とされたのだった。
 「ちょ、おま、蹴り落とすことねーじゃねぇか!」
 「よかったじゃないの、念願の普通の男に戻れて。」
 水面を覗いているあかねの顔は、笑っていた。
 「ったく……」
 仕方なく乱馬は泉から這い上がるが、その直後にぽむと手を叩いた。
 「そうだ、今ので思い出したぜ。」
 「って、何が?」
 「ちょっとな……」
 乱馬はリュックからあるものを出してあかねに渡す。それは、どこか見覚えのあるコンパクトだった。
 「これって……」
 「後ろを叩いて中身を出してみな。」
 あかねはポンとたたく。

  ずるうっ

 「!?」
 とたんに中から出てきたのは、かわいいお下げ姿の女の子だった。いや、かつての乱馬の女姿とでも言うべきか。
 「あーっ、やっと外に出られたー!ちょっとー、今までよくも閉じこんでいてくれ……」

  げしっ

 「……な。」
 乱馬はらんまを押さえつけながら言う。
 「ちょっと前にあの屋敷の鏡のことを思い出してな、わざと写ってきたんだ。あの鏡が壊れない限り、半永久的に生きてられるらしいぜ。これで、女の姿の俺も一緒にいるわけだ!」
 「……乱馬、多分その話、この中じゃ私しかわからないわよ?」
 「確かにそうだな……とりあえず、これから二人いるぞということで。」
 「後、大事なこと忘れてない?」
 あかねはため息混じりに言う。
 「ん?」
 「確かあの鏡から出てくる人は、とてもナンパ好きになるって……」
 乱馬が押さえつけていたものは、いつの間にか丸太に変わっていた。
 「あ、あのやろー、どこ行った―――!?」
 あわてて辺りを探し始める乱馬。

 「乱馬様が二人……楽しくなりそうですね。」
 「いや、とてもややこしくなりそうあるな。」
 「そうね……」
 (あの時のパスポートって、そういう意味だったんだ……)




 その後、天道道場の周りではしばらく『乱馬が二人いる』という噂が飛び交った……。

執筆最終更新日:2006年3月21日

うわ、短編小説の更新なんて約一年半ぶりだ!(爆
ええ、日記に書いた「一年間ほっとかれた話」です。なんか、どこら辺で滞っていたかが丸わかりの文だな……終わり方も変だし。それ以前にこんな簡単に行けるのか。初期に書いた作品並みにツッコミどころ満載だな、これ……。
多分未来編(?)の話はこれ以降書くことはないと思います。設定は決まってはいますけど(詳しくは100の質問を参照(ぁ

るーみっくへ
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