呪いのワラ人形




 「………!」
 五寸釘は雑誌のある広告に目が釘付けになった。


誰かを恨んでいるのに仕返しできない、そんなあなたへ……
そんな時にはこのワラ人形!
見た目は普通のワラ人形と代わりはありませんが、その人形に恨んでいる人の髪の毛を入れ、その人の特徴もワラ人形に似せて手や足などを動かせてみるとアラ不思議。その人がワラ人形と同じように動くのです。
また、この人形に何か衝撃を与えれば、その人も人形と同じ衝撃を受けてしまうのです。つまり、人形を殴ればその人も殴られる衝撃を受ける。
これを使えば簡単に人を操ることができ、簡単に仕返しも出来ます!

 今日すぐ、申込書を封筒に入れてお申し込み下さい。

 (てことは簡単に早乙女を操ることも出来る……)
 早速五寸釘はそのワラ人形を申し込んだ。




 数日後の朝。ワラ人形が届いた。
 「ふっふっふ……これで今日から早乙女は僕の操り人形さ〜…そしてあかねさんを……」
 五寸釘は箱の中からワラ人形を取りだしてみる。本当に普通のワラ人形にしか見えない。
 「早乙女の髪は昨日手に入れたからこれを入れて〜…特徴と言ったらやっぱりおさげだから……」
 「光〜、早くしないと遅刻するわよ〜。」
 「は、はーい。」
 (……そうだった、嬉しさのあまり学校に行くところを忘れるとこだった。このワラ人形、今日から早速使おう。)
 五寸釘はワラ人形を持って家を出ていった。




 なんとかギリギリで学校に着き、一時間目。数学である。
 「え〜…これが80であるから、そこから結合法則によって〜……」
 眠い。そして暇である。
 五寸釘は早速あのワラ人形の効果を試してみたかった。
 「じゃあ、この時yの値が何になるかわかる人、手を挙げて。」

 (…今だ。)

 こっそりと人形を出し、人形の右腕を上に上げてみる。それと同時に、乱馬の右腕も上に上がった。

 (ほ、本物だぁ……)

 乱馬の方は突然上がった自分の右腕を下ろそうとするが下ろせず、少し戸惑っている。
 「お、早乙女がこんなのに手を挙げるなんて珍しいなぁ、答えてみろ。」
 「え……」
 仕方なく席を立つ乱馬。

 (さあ早乙女クン、みんなの前で恥をかくんだよ〜。)

 「え、えーと……14ですか?」
 「その通り。従って、xの値は6になる。わかったか?」
 「は、はぁ……」
 乱馬はなぜ勝手に自分の腕が上がったのかよくわからないまま席に座る。
 「乱馬、あんたもたまにはやるじゃない。」
 「いや、なんか知らねぇんだけどさ、腕が勝手に上がったんだよ。」
 「え?そんなことあるの?」
 「でも……適当に言ったら当たっちまったからまぁいいか。」

 (おのれ早乙女……普通に「わかりません」と言えばいいものを……)
 後ろで五寸釘は燃えていた。この後、似たような質問もあったのだが、またさっきのように答えられてしまってはまずいので、結局この時間は一回しか人形を使えなかった。
 しかし、それでも人形の効き目が本物であることは確かめるのができたのだ。


 二時間目は国語。この時間も人形は使えなかった。


 三時間目、体育。いつもの鉄棒だ。
 「よぉーし、次早乙女乱馬!」

 (そおいえば昔、似たような場面があったような……まぁいいや、転ばせてみよう。)

 乱馬はこんなの朝飯前とでも言うかのようにぶんぶん回っている。

 (もうそろそろ動かしてみようかな……)

 五寸釘は人形の足を前に出してみる。
 「…!?」
 すると、乱馬の足も前に出た。

 (よぉ〜し、次はこうして、こうして……)

 適当にいろんなところをいじくりまわす。この時五寸釘は人形しか見ていなかった。
 そして、両手を上に上げたところで五寸釘はいじるのを止めた。

 (ど…どうなってるかな……)

 前を向くと、乱馬はなんと逆立ちの体勢で着地していた。
 「早乙女……どーやったらそういう風になるんだ?なんか人間技じゃなかったぞ。」
 「いや、なんかその……」
 人形をいじっている間何がどうなったのかよくわからないのだが、とりあえず乱馬は転ばなかったらしい。

 (素直に転べよ、早乙女……)
 やっぱり五寸釘は燃えていた。


 四時間目、英語。ひな子先生の授業のため、ほとんど授業になっていない。人形を使う機会もなかった。


 昼飯もあっと言うまにすぎ、昼休み。
 「五寸釘、またワラ人形持ってんのかよ。」
 「ま、まぁね。」
 ひろしと大介が五寸釘の所に来た。
 「相変わらずうまいよなぁ。」
 「このおさげ……また早乙女をやってんのかー?いい加減にあきらめろって。」
 ひろしはそう言いつつ、人形のおさげをくるくる動かす。

 その頃、廊下では……
 「乱馬、どうやったらそんなところ動かせるのよ。」
 「……勝手に動いてるんだよ。」
 乱馬のおさげも動いていた。

 「でもなんでこういうもんばっかり持ってんだー?」
 ひろしはポーン、ポーンと人形を二回ほど上に上げた。それと同時に

   どがっ どががっ

 「ん゛…?」
 廊下からも大きく鈍い音がした。

 「……あんた自分から天井にぶつかって楽しい?」
 「楽しいわけねぇだろ……」

 「五寸釘、これってもしかして……」
 大介に言われ、五寸釘はギクッとする。
 「さ…早乙女に言っちゃあダメだよ……早乙女に言っちゃあ……!」
 なぜかこの時の五寸釘はかなり迫力があった。
 「は、はい…わかりましたっ。」




 ………放課後。
 五寸釘は一人、木の横にいた。
 (う〜ん、あんまりこの人形使いこなせていなかったような……明日もあるにはあるけれど、今日中にもっと何かやりたいし……どうしようかな……)
 その時、ふと思い出したのは自分がいつも普通のワラ人形でやっていること。
 『早乙女のバカ』と言いながら木にワラ人形を打ち付けていること……。
 (そうだ……いつものことをやっていれば……!)


 「乱馬、あんた今日ちょっと変よ。」
 「そんなの俺だってわかってる。」
 (何なんだよ今日は……勝手に手が動いたり足が動いたり……)
 「…とにかく、さっさと帰ろうぜ。」
 その時……

   ズキッ

 「っ……!?」
 乱馬は急に腹に痛みを感じた。何かで突き刺されるような痛みを。
 「ちょっと、どうしたの!?」
 「なんか知らねぇが……腹が痛ぇ……」

   ズキッ……ズキッ

 それは、数秒ごとに何度も刺されるように感じ、感じるごとにもっと痛くなっていく。
 「保健室行く?」
 「なんでこんなことで行かなくちゃいけねぇんだよっ……」


   カーン……カーン…

 「早乙女っ……苦しめっ……もっと苦しめっ!」
 五寸釘は、あの人形を木に打ち付けていた。
 (ふふふ……今頃早乙女の奴、思いっきり腹痛くなってるだろうな……)
 「苦しめえっ!」

   がんっ

 「………」
 金槌を思いっきり自分の指に当ててしまった。
 「痛い…」


 「……痛みが治まった…」
 「本当に?」
 「よくわからねぇけど……ん?」
 後ろでひろしと大介が乱馬をちらっと見ながらひそひそ話している。
 (あいつら何やってんだ?)
 二人は何か決心したような顔をすると、乱馬とあかねの所に来た。
 「早乙女、実は五寸釘の奴がよぉ……」


 (指痛い……でももう少し打たないと……)
 そう思いつつ再び五寸釘が釘を打とうした時、
 「五寸釘ぃっ!」
 後ろで怒鳴り声がした。あわてて振り向くと、そこにいたのは乱馬。
 「てめー今までよくも……」
 「や、やあ早乙女クン…何のことかな?」
 「じゃあこのワラ人形は何なんだ?」
 「いやぁ、その、これは……」
 五寸釘はおそるおそるワラ人形から釘を抜いて手に持ち、
 「…こうするために。」
 人形の両足を上に上げた。
 「どわっ!?」
 乱馬の両足も上に上がり、乱馬はしりもちをつく。
 「お、おめぇ何しやがるっ!」
 「こ、こうやってこうやってこうやって……」
 いろんな所をとにかく動かす五寸釘。そして動かされる乱馬。
 「ちょっ、てめえっ…」
 「こうやってぇっ!!」


   みし……


 「あ゛…」

   ……どたっ

 五寸釘は思いきり乱馬に殴られ、気絶してしまった。
 (い、今のは俺じゃねえ、腕が勝手に行ったから……)
 「…五寸釘、今のは自業自得だぞ……」
 「乱馬ーっ?」
 「早乙女ーっ。」
 そこにあかねとひろし、大介が走ってきた。
 「ったく、いきなり走り出して……すんげー探したぞ。」
 「あー…それは悪かったな。」
 「ねえ、この人形と乱馬と何か関係あるの?」
 「あかね、おまえなぁ……こいつらの話どう聞いてたんだ?」
 「どうって……」
 あかねは人形をぎゅっと強くつかむ。
 「お、おいあかね、その人形もう少しやさしく持て。」
 「?」
 「だからなぁ、俺がその人形の通りに動いたり刺激を受けたりしちまうんだよっ!」
 「あ、そういうことね。」
 「でも早乙女、このワラ人形どうする?ヘタに捨てたりするととんでもねぇことになるぞ。」
 「俺に言われても……」
 「だったらいい方法あるじゃない。」
 「え?」
 「とにかく誰かが持ってはいけないんだから…」
 「おいっ、あかねもしかして……」



   ぽ――――――――ん



 あかねは人形を思いっきり空の彼方へ投げ飛ばした。
 「こうすりゃ絶対誰にも取られないってあれ……乱馬、どこ?」
 「………」
 きょろきょろするあかねに、無言でひろしと大介が空へ指を指す。
 あかねが見ると、夕日の中に小さく人形……いや、乱馬の姿が……

 「ちょっと、なんであんたまで空飛んでんのよっ!?」
 「おまえやっぱり、全然人の話理解してねぇ〜〜っ!!!」



 その後、乱馬が天道道場に帰ってきたのは四日後だったという………

執筆最終更新日:2002年9月17日

これは、あるサイトの影響を受けて書いた物だったり。
元ネタはうる星の2巻の念動力ゲームと、22巻のワラ人形からですが。
それからこの話を書いた時は、まだ高校の授業がどんなもんかよくわかっていませんでした;

るーみっくへ
トップページへ