意識と無意識の狭間で……
―――それは勝ったと思った直後だった。
「これが飛竜降臨弾だ―――っ!!」
上からあの男の声が聞こえたと思うと、とてつもなく大きな気砲が私に迫ってきた。
ドガガガ………!
バ……バカな……
……私は為す術もなく地面に倒れていった。
この私があんな奴に敗れるとは……
何故か一瞬、乱馬の髪が銀色っぽく見えた。
そう思ったか思わなかったかのうちに、私は気を失った……。
「………?」
私が目を覚ましたところは、周りに何もない、ただ真っ白な空間。
一瞬死んだかとも思ったが、そんなわけはない。
あれだけで、私が死ぬはずがない。
恐らく、これは夢だ。
とりあえず、今までのことを思い出してみた。
乱馬とか言う女男と戦い、勝ったと思った瞬間にいきなり巨大な気砲を浴びせられて気絶した………。
一瞬乱馬の髪が銀色っぽく見えたのはきっと目の錯覚。
巨大な気砲を通して見たからだと思った。
どこからか、ある人影が私の所へ歩いてきた。
最初はただぼんやりとしていてよく見えなかったが、少しずつその姿が見えてきた。
それは……何やらかなり派手な着物と鎧を身にまとった、銀色の髪の男。
その男は、まだ私と少し距離があるところで立ち止まった。
どうみても普通の人間ではなかった。
いや、人間とも言えるかどうか……。
「貴様……誰だ?」
「貴様に名を名乗っても仕方ないだろう……目が覚めるころにはどうせ全て忘れているのだからな。」
目が覚めるころ……やはりここは夢か。
そう思いながら、私はその男に近づいた。
「……それ以上私に近づくな。ここは意識と無意識の狭間。下手に近づけば二度と貴様の目は覚めない。」
「……………」
仕方なく、私は足を止めた。
「ただ、貴様と話すことが出来るのも何かの運だ……これだけは話してやる。私は、貴様の500年前の姿だ。そして、貴様が戦っていた奴は……500年前ならば、私の弟であった……。」
「な゛っ……」
一瞬、私は男の言う意味がわからなかった。
だがそれはすぐにわかった。いや……わかってしまったの方がいいだろう。
……半信半疑ではあったが。
「あやつもそんなことには気づいてないだろう。前世の記憶など普通持つわけがないからな。」
「500年前のことではあるが……私とあやつはちょっとしたことで争っていた。本当に……くだらぬことでな。」
その男は何かを話し始めたが、聞いたことのない言葉などがとても多く、半分も意味がわからなかった。
問いかけても無視して話を進めていた。
「私はあやつとの関係は完全に断ち切れたと思っていたが……まさかこんなことで会ってしまうとはな。」
そんなことなど……私の知ったことではない。ただの偶然だ。
ほとんど意味がわからなかったので言いはしなかったが、私はそう思った。
「…なぜ、貴様は私にそのようなことを話す?」
「ふん……ちょっとした気まぐれだ。」
こいつ……訳のわからないことが多すぎる。
ふと、私は自分の体が半透明になってきていることに気が付いた。
「……やっと覚めてきたようだな。」
そうか。この体が完全にここから消えるとき、本当の私は目を覚ますのか。
「しかし、あやつは生まれ変わってもなお………いや、生まれ変わって更に情けというものを持ったらしい。」
「……どういうことだ?」
「貴様の目が覚めればわかることだ。」
そういうと、その男は後ろヘ歩いていった。私の体は、もう足が消えてしまっている。
「待て、貴様にはまだ聞くことが……」
「これ以上言ってなんのためになる。貴様は目が覚めればここでのことは全て忘れるのだ。もちろん、さっきまで話したこともな。」
その男は霧が出てきたかのようにだんだん姿がぼやけ、見えなくなってしまった。
それとほぼ同時に、私の体も完全に消えていった………。
ザ――――…ン……
……どこからか波の音が聞こえる。
いつの間にか私は、船の上に倒れていた。
「ハーブさま、お気づきになりましたか。」
目の前には、いつもの二人がいる。
さっきまで見ていたはずの夢は全く思い出せない。銀色の髪の男がぼんやりと頭の中に写るだけ。思い出そうとすればするほどわからなくなる。
私は立ち上がって日本の方を見る。すると、行く時には見えていたはずの宝来山があとかたもなく消えていた。
「実はハーブさまが倒れた後、宝来山が大崩壊を起こしたのです。」
「そして、その時ハーブさまを………」
なぜか、私は二人の後に言う言葉がわかった。
「乱馬が……私を助けたのか……」
「…はい、ハーブさま。」
二人は、不思議そうな顔をして答えた。
そうだろう。私でさえ、なぜそれを知っていたのかがわからないのだから。
しかし、この私を助けるとは………
早乙女乱馬……たいした男だったのかもしれんな……
それにしても、あの夢は一体……?
どうしても思い出せない。なんだったのだろうか……。
ざぷ――……ん
…………。
そんな私の小さな考えを、たった一つの大波が見事に洗い流してくれた。
「ちちだ――――――っ♪」
二人がいつものように騒ぐ。
「ちちの話はもういいっ!!」
もうこのことは考えないようにしよう。
こんなに思い出せない出来事なのだから、きっと重要なことではないのだろう……。
執筆最終更新日:2003年6月1日
乱馬=犬夜叉とかそういう話は多いのに、私が考えている殺生丸=ハーブってのを見た事がなかったので。つまり、妄想です(笑)
真面目にシリアスに作ってみようとしたんです、これ。本当に。
……でも無理でした。殺生丸喋らせすぎたし。二人の会話、かなり苦労しました……。